リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

「戦争はなぜ起こるか」 1 フランス革命戦争の場合

戦争はなぜ起こるか―目で見る歴史 (1982年)

戦争はなぜ起こるか―目で見る歴史 (1982年)

「戦争はなぜ起こるのか」はテイラーという有名な史家が書いた著作です。原題は「HOW WARS BEGIN」。中身はタイトルの通り、戦争がいかに開始されるかを書いています。フランス革命戦争から冷戦までの主だった戦争を取り上げています。

何せテイラーの著作ですので、読み物としても面白く、多くの示唆を与えてくれます。戦争の原因は百万通りもあるとしても、その中で「錯誤」と「不合理」が含まれないものは一つもないようです。

今回はこの本から「フランス革命戦争」の項を取り上げます。

戦争をする気はなかったのに、戦争を開始した

フランス革命はヨーロッパ全土に戦争を巻き起こしました。革命フランスは周辺諸国に勝利し、次々に征服していきました。フランス革命戦争です。

フランス革命戦争は政治的な対立から起こりました。革命を危険視した周辺諸王国は、革命フランスを恫喝しました。革命フランスの側は「自由の回復をもとめる各国民には援助と友愛を約束する」という美名のもと、諸外国の体制転覆に協力するぞという挑発的な宣言をしました。この保守勢力と、リベラリズム並びにナショナリズムを標榜する勢力がぶつかり、大戦争が起こったのです。

ところが…テイラーは言います。

双方とも実際には戦争のことなど考えてはいなかったのだ。

旧体制側の軍隊は職業軍隊ではあったが、他国を占領・支配できるだけの装備など施されてはいなかった。彼らは警告を発するだけで十分だと考えていたのだ。

また、フランス革命側についても同様で、軍隊は事実上壊滅しており、戦争を叫んだり、あるいは、他のヨーロッパ諸国に抵抗するように説いたようないきのよい政治家も、実際には誰ひとりとして、フランス軍の現状について顧慮してはいなかったのである。

それぞれが脅し文句だけで十分と考えていたのである。
p18 「戦争はなぜ起こるか 絵で見る歴史」AJPテイラー 新評論 1982

脅しのつもりだったのが、段々と本気になり、ついに革命フランスはオーストリアに戦争を仕掛けることになります。これは「新たな十字軍を」という理想主義と、戦争が本格的に始まればフランス王ルイ十六世を廃位する口実が見つかるだろうという思惑によるものだったそうです。

「解放」のための戦争

その後、革命フランスは次第に勝利します。その行動は旧体制のフランス王国が行ったものと変わりませんでした。自然国境まで領土を広げ、他国を征服して賠償金をせしめ、従属させていったのです。旧体制時の戦争と違うのは、征服した土地の教会や修道院を閉鎖して「諸君を解放した」と称しただけでした。

この戦争のためフランス以外の各国にもナショナリズムが芽生え、国民国家が成立します。ですがそれは革命フランスに解放してもらったためというよりも、革命フランスから自らを解放するためでした。

「解放者」と「いきのよい政治家」には注意

ここには二つの教訓が見て取れるように思います。

フランス革命以降も、「不当に抑圧されている○○国の人民を解放するのだ!」と称して多くの解放者たちが戦争を行いました。不思議なことに、”解放”されて最終的に幸せになった人民はあんまりいないようです。*1むしろ解放してくれた側に対して恨みを抱くことが多いのではないでしょうか。

「あなたは気づいてないようだが、あなたは不当に抑圧されている。だから私が解放してあげよう」という種の外交政策には、眉に唾をつけて接した方がよいのかもしれません。また、そんな口実で戦争をしても「余計なお世話だ」と恨みを買うので、止めた方がいいでしょう。

対外的に過激の論を説く政治家が、しかし実際の軍事にはたいてい顧慮しない。これもまた、今も昔もあまり変わらない教訓かもしれません。現在では政治家ならずとも、対外的に威勢のいい言説を主張する人には事欠きません。そういった方々についても、軍事的現実を踏まえて議論しているかどうかを見極めた方がよさそうです。

次にテイラーはクリミア戦争を取り上げていますが、それについてはまた次回書こうと思います。


*1:既に他国に支配されていた国に独立を回復してやった場合を除けば