リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

事故に遭った護衛艦「くらま」はどういう艦か

関門海峡で残念な事故がありました。海自の護衛艦と韓国の貨物船が衝突したのです。幸い双方とも死者はありませんでした。怪我人は海自側に数名でたもようです。一日も早いご回復をお祈りします。

画像を見る限り、護衛艦”くらま”の船首部がボロボロになっています。

ヘリコプター護衛艦”くらま”

今回事故に遭った「くらま」は海上自衛隊の艦艇です。「ヘリコプター搭載護衛艦(略称:DDH)」という種類です。DDHはその名の通り、ヘリコプターを多数搭載します。

ヘリは艦隊の目として四方を見張ったり、敵の潜水艦を探すといった重要な役割をにないます。他にも人や物資の輸送、救難任務から電子戦にいたるまで、はばひろく活躍する柔軟性の高い兵器システムです。

そのヘリを多数搭載しているDDHは、艦隊の中心的な存在です。海上自衛隊は設立以来、わけあってずっと対潜水艦戦を重視してきました。潜水艦を見つけ、追跡するためにヘリ、そしてヘリを多数運用できるDDHは極めて重要です。

汎用護衛艦でもヘリを搭載すること自体はできるのですが、DDHの場合は数が多いという特徴があります。ヘリを常に使用できるようにするためには、3機を積むことが理想です。一機が整備、一機が発進準備、そして一機が空中にある、という具合です。”くらま”らのDDHはこの考え方から、3機のヘリを積めるように設計されています。

よってDDHはヘリを離発着させ、また格納するスペースを設けています。

艦の後ろの方に、平らなスペースがあるのが分かります。このスペースがヘリの離発着場になっています。またその手前にある角ばった建物がヘリの格納庫です。

”くらま”は二代目のDDHとして1980年頃に就役しました。初代である"はるな"型の二隻に続き、能力を向上させた”しらね”型が設計されました。その二番艦が”くらま”です。

老齢のためそろそろ交替の時期が迫る

”くらま”は1980年頃から2009年現在まで、30年近くに渡って活躍してきました。艦齢30年というのは、軍用艦にとってはなかなかの老齢です。そろそろ新造艦に後を継いでもらい、引退すべき時期です。

”くらま”とその同型艦の”しらね”を代替する後継艦は、平成22年と平成24年の予算で建造開始される予定です。まだ名前は決まっておらず、22DDH、24DDHと呼ばれています。
22DDHのイメージ図

22DDH型は多目的空母として建造される予定です。従来のDDHからヘリの搭載数を大幅に増やした上、輸送艦・揚陸艦・補給艦としての能力を兼ね備えたものです。

”くらま”らが建造された冷戦時代に比べ、現在では自衛隊の任務が多様化しました。想定される有事はさまざまな規模となり、また平時にも国際貢献や災害派遣でさかんに出動するようになりました。よってこれからはDDHも能力を拡大し、多様な任務に使える艦が望ましいのです。22DDH型が完成すれば現在の日本の環境にふさわしい艦として、平時と有事を問わず様々に活躍してくれるでしょう。

後継艦の就役までは”くらま”に頑張ってもらう必要がある

とはいえそれらの新造艦はまだ建造予算すら通っていません。完成までは”くらま”と”しらね”の二隻に頑張ってもらう必要があります。

よって恐らく”くらま”は今回の事故による破損を修理して、引き続き運用されることになるでしょう。

修理代がどのくらいかかるかはまだ分かりませんが、予算不足の自衛隊には困った問題です。同型の”しらね”が二年前に火災事故を起こしており、この修理の際には多額のお金がかかりました。それに続き”くらま”も事故で損傷、修理とは痛い出費になるでしょう。

もしも修理代を出すのが厳しいということになると、修理せず引退という可能性も皆無ではないかもしれません。護衛隊はDDHまたはDDG(ミサイル護衛艦)を中核として作られています。よって”くらま”が抜け、後継艦の就役まで間が空くとなると、"くらま"が所属している第二護衛隊はDDH抜きのDDHグループという変則的な形になってしまいます。

すると隊は構想されている能力を発揮できなくなりますから、海自としてはできるかぎり”くらま”を修理して引き続き使う方向でまとめようとするのではないでしょうか。

参考

関門海峡で護衛艦くらま衝突事故、火災発生 : 週刊オブイェクト
事故原因と今後の対策についての優れた考察です。

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