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リアリズムと防衛ブログ

防衛ってそういうことだったのかブログ。国際関係論や安全保障論について、本の感想などを書いています。

普天間移設、および軍事は政治の道具だということの意味(追記あり)

 私はこのブログで普天間移設問題について語ることを避けてきました。なぜならこの問題は大きすぎて、私の手には負えないからです。といっても「普天間基地を移設しよう、移設先はどこが便利か」それだけで済めば、話はとても簡単なのです。しかし、それは軍事の論理です。

普天間は軍事だけの問題ではない

 沖縄県内移設、まして本島以外への移設となれば、この問題は軍事の論理だけで語れる範囲をはるか飛び越えてしまいます。普天間普天間だけの問題ではないのです。これについては以下の記事が参考になります。

はてなダイアリー

■基地問題で問われているもの

安全保障上、外交上、経済上必要とされるもの、要請されるものは当然いくつも存在する。

しかし、この問題は以下の項目が肝要であるように感じられる。


・日本民族が(広義の)沖縄に対していかに向き合うかを再度自身に問うこと
沖縄本島に着目するばかりでなく、先島・奄美などの歴史をどう捉えるかを真剣に考慮すること
・現実に発生している問題(基地偏重、米軍犯罪等とともに中国の領海・領空侵犯、海洋海軍化)を無視しないこと
・もっとも重要なのは、日本民族が関心を高め、理解に努め、その上で、なお必要とされる負担があるならば、それは頭を下げ、お願いし、理解してもらうこと

 私は不勉強で、先島・奄美はもとより沖縄本島の歴史や事情にも暗く、それらを踏まえてこの問題を語ることができません。ですからこの複雑・重層的な問題について、書くことを避けてきました。ですがこの程、あんとに庵さんから引用とトラックバックを頂きましたし、ここ数ヶ月ずっと話題になっていることですから、これを機に少しだけ書いてみようと思います。

なぜ普天間基地を移設するのか?

 普天間基地にはアメリカ軍海兵隊が駐屯しています。この部隊はむかし日本の本州にありました。日本が主権を回復したあと、当時はまだアメリカが施政権をもっていた沖縄に移動しました。

 基地ができたころ、普天間は畑ばかりの土地でした。しかし基地ができたことと、時代の流れによって基地周辺は発展し、市街地にかわりました。すると基地というのはなかなかに迷惑なものです。飛行場があるのだから、騒音があります。それに飛行中のヘリが誤って物を落としてしまったり、あるいは故障して墜落したりすると、下は市街地だからとても危険です。

 危なくてしょうがないので、もうこの基地をよそへ移そう、という話になりました。そこでここ十年くらい、引越し先を色々検討して、沖縄本島の「辺野古」というところに決まりました。日本政府、米軍、沖縄県、辺野古でどうにか合意がとれました。あとは細かい現地調査が終わったらいよいよ引越し準備をはじめようか、といったところで政権交代です。

 自公政権をひっくり返して出来上がった鳩山政権が、じゃあこの辺野古案もひっくり返してゼロベースで再検討するよ、と言い出したのが去年のこと。日本国外や沖縄県外へ移設して「沖縄の負担を軽減したいね」といいながら再検討がはじまります。この案はどうかな、あそこがいいんじゃない、と色々みてみたところ、やっぱり沖縄周辺しか無いよね、という元の木阿弥な話に落ち着きつつある今日この頃です。

引越し先の選びかた

 個人や企業の引越しでもそうですが、引越し先がえらく不都合なところで、仕事に差し支えたら困ります。取引先が都内にしかない企業が、なぜか島根に引っ越したりしますと、営業が訪問するのも一苦労で、何とも具合が悪いでしょう。軍事基地もおんなじです。

 普天間基地の引越し先を考えるのに必要なのは、普天間基地が何の仕事をしているのか、引越し先でもその仕事は果たせるか、です。じゃあ普天間は何の仕事してるのよ? という話は「週刊オブイェクト」で詳しくとりあげられています。要すれば、台湾紛争に火がついたときに素早く飛んで駆けつけて、事態の火消しをやることです。そして「もしもの時はすぐ駆けつけます」という事実によって紛争の発生を未然に防ぐ(抑止する)ことです。

普天間基地の機能

 もっとも台湾有事だけではなくて、ほかにもお仕事はあります。普天間を含む在沖縄米軍という大枠でみれば、ユーラシア大陸包囲の一翼として機能しているともいえるでしょう。北東アジアに限ってみても、沖縄のアメリカ軍は台湾と朝鮮の両にらみです。だから台湾だけではなく、韓国の安全にもかかわってきます。韓国紙の中央日報はこう報じています。

沖縄米軍基地、すなわち普天間海兵航空基地をめぐる日米の葛藤は他人事ではない。 韓半島の安保を脅かす新しい要因に浮上する可能性がある。 普天間の4大任務の一つは国連司令部の後方基地の役割だ。 韓国戦争当時、米国のB−29爆撃機はここから発進した。
【社説】韓国安保の暗雲、不安な日米同盟 | Joongang Ilbo | 中央日報

 とはいえ、目先、普天間基地に話を限り、かつ今いちばん大事なのは台湾有事の際、まっさきに飛んでいけることです。じゃあまっさきに飛んでいくためには何が大事か? それは距離です。なのでヘリで台湾までいける距離じゃないと仕事にならないよ、と書いたのがオブイェクトさんの記事です。

・参考 なぜ普天間基地移設先は沖縄県内でなければならないのか : 週刊オブイェクト

 移設先について、当のアメリカ軍からは「海兵隊の地上部隊とヘリの駐留場所は、65カイリ以内じゃないと困るよ」という話がでました。(4/22朝日)これもお仕事の都合です。普天間基地の仕事を消防活動にたとえてみましょう。台湾で紛争の火の手があがったとき、すぐ駆けつけて消すため消防です。海兵隊の地上部隊は消防士、ヘリは消防車です。火災現場にすぐ駆けつけるには、消防士と消防車は近くにないと困ります。これが遠く離れてあると

「こちら普天間消防署。火事の通報があった。急いで消防車をよこしてくれ」
「こちら消防車。わかった。すぐ行く。明後日の昼まで待ってくれ」

 という漫才のようなことになって、そんなことを言ってるうちに消せるボヤも大火事となり、家ならば丸焼け、紛争ならば拡大し、斬首戦略なら完了してしまいかねません。

じゃあ台湾に移設するのはどうなの?

 こういう話をしますと「じゃあ最初からその米軍基地、台湾に置いておけば話が早いんじゃないの」と思われるかもしれません。しかしそうはいかない事情があります。それをやろうとすると、戦争になるからです。

 中華人民共和国、略して中国は台湾を自国の一部だと考えています。この考えを「一つの中国」といいます。でも台湾政府は実質的には独立しています。それなのに中国がそれを認めないのは、台湾政府の正式名称が「中華民国」といい、こっちも中国だからなのですが、これを説明すると長くなるので省略します。ともかく、中国は「台湾は中国領の一部だ」と固く信じてる、国民にもそう信じさせている、ってことが重要です。

 アメリカにとって台湾は昔から事実上の同盟国です。しかしアメリカは台湾を国として認めてはいません。昔は認めてたのですが、中国が「私か台湾か、どっちかハッキリ選んでくれないと、あなたと付き合うなんてヤだ」と言うからです。だから建前上は中国の主張を理解しつつ、実際には台湾との付き合いをもってるし、台湾が中国に攻められれば救援する用意があります。建前と本音でズレがある、というのがポイントです。

 もしアメリカが台湾に海兵隊の地上部隊の基地を作るとしたら、それはこの建前をかなぐり捨てるということです。これは中国の目にはどう映るでしょうか?

 完全な侵略です。自らの正当な領土に他国が軍隊を送り込んでくるのです。まして死ぬほど大事に思っている台湾へ。自らの正当な領土(と信じている)台湾を、(主観的には)守るために、侵略者と戦わねばなりません。

 実のところ現在でも台湾にアメリカ軍の要員は存在するらしいのですが、これはあくまでも情報部隊です。しかし実戦部隊を送り、基地をおくとなると、これは中国にとって絶対に許せないでしょう。台湾を併合できる可能性がほぼ永久に消滅するからです。

 また、中国内部の事情もそれを許しません。中国は「一つの中国」というアイデアに命を賭けており、常々そうアピールし、国民に信じさせてきました。これをアメリカに堂々と踏みにじられて、黙ってみていたら、中国政府は恐らく潰れます。主席や首相の権威はたちまち消滅して、別の人に取って代わられるか、あるいは軍がクーデターを起こすかです。

 そこで中国政府としては究極の選択を強いられます。もしアメリカ軍が到着する前に台湾全土を占領できれば、アメリカは諦めるかもしれない…そこに賭けて、イチかバチか戦争に打って出るか、さもなくば座して崩壊するかです。

 ちょっとキューバ危機に似ているかもしれません。あのきっかけはアメリカのすぐそばのキューバに、ソ連が核ミサイルを配備しようとしたことです。アメリカにとって絶対に容認できないことだったので、戦争をも覚悟したギリギリの交渉がなされました。結局はソ連がキューバへの配備を取りやめることになったから良かったのですが、一歩間違えれば核戦争でした。

 台湾にアメリカ軍が実戦部隊の基地をつくるというのは、中国にとってそれくらいの重大事です。絶対に容認できないことなので、戦争をしてでも止めようとするでしょう。こういう事情ですから、普天間基地を台湾に移設する、なんていうのはありえない選択です。

もしも沖縄以外に移動したら?

 
 こういう事情ですから、普天間の移設先はどう考えても沖縄県内になります。自民党時代に10年くらい検討して沖縄本島辺野古に落ち着きました。鳩山政権が去年から半年くらい再検討しても、やっぱり沖縄またはそのごく近くに落ち着きつつあります。

 でも、本当に沖縄以外はぜったいダメなのでしょうか? id:antonianさんはこう仰っています。

★基地は沖縄にないとダメなんだ!!!
軍事に疎いんでよく判りませんが、ほんとなんでしょうか?・・と、そういう議論があまり為されてないよな。
普天間移設に関して絶賛妄想中 徳之島問題で出て来る批判、まとめ。(追記あり) - あんとに庵◆備忘録

 私も作戦には疎いので確たることは申し上げられないのですけれども、お答えを試みてみます。もし普天間基地が果たしている機能を残そうとするならば、沖縄以外はあり得ないでしょう。しかし、代償を払うのならば話は別です。「今の普天間が果たしている機能を捨ててもいい」というのであれば、沖縄以外でもいいでしょう。

 すれば台湾有事への備えはどうなるでしょうか? 次善なのは、平時は沖縄にはいないけれど、台湾海峡で緊張が高まったときに沖縄に前進する、という形ではないでしょうか。つまり普天間の部隊は大部分が移転するけれど、基地はそのまま維持しておいて、必要なときだけ部隊を戻す、という形です。あるいは普天間以外の基地でもいいですが、とにかく情勢不穏となった時にだけ沖縄へ移動する形です。

 ただこれには問題があります。情勢が緊張した時には、部隊を沖縄に移動させるという行為、それ自体がさらに緊張度を高めてしまいます。だから下手をすれば「まずい、沖縄に部隊が帰ってきたら手が出しにくくなる。じゃあその前にイチかバチか」と中国に決意させてしまうかもしれません。そういう可能性があるため、緊張度が上がってから部隊を戻すというのは難しい決断になります。それに加え、緊張度の上昇をアメリカが認識する前に奇襲がおこなわれたとき、沖縄以遠からではタイムラグがあって間に合わない恐れがあります。

 

軍事の論理と、政治の仕事

 と、こんな風に書くと、普天間の機能をなくしたら絶対いけない、沖縄以外はありえないと言っているように思えるかもしれません。しかし、軍事的にはそうでも、普天間の移設問題は、軍事的な都合だけを見て決められる話ではありません。軍事の論理は重要ではありますが、政治とは常に軍事の都合だけで決めていいものでもありません。

 例えば日本政府が「沖縄の負担軽減」を絶対にやるんだと、普天間の機能はどこにも移さず、無くなっていいんだ決意したとします。そして「そういうわけだから撤収よろしく」とアメリカに断固として言えば、日本は主権国家だし普天間は日本の領土なんだから、アメリカとしても最後は聞くしかありません。

 軍事は政治の道具なのです。時には軍事の論理より、他のものを優先させる政治決断があっても、それはそれで当然のことです。ただしその結果は、道具の主人たる政治に、ひいては政治に最終的な責任を負っている国民に帰っていきます。生じる軍事的な結果を覚悟のうえなら、普天間基地の機能どころか、たとえ在沖縄米軍の全部隊であったとしても、無くしてしまって構わないでしょう。

 実際、普天間基地ひとつを撤収すれば台湾が今すぐ中国に併合されるということもまずないでしょう。単に抑止力が低下し、日米関係が悪化し、日本の南西諸島の防衛や尖閣諸島の領有権が少しく危うくなること。中台へ誤った外交メッセージが送られ、将来において海峡で緊張度が高まったときの戦争の歯止めがあらかじめ一つ減り、そして中台で紛争が起これば米軍基地があろうが無かろうが日本は必ず害をこうむるということ。せいぜい、それくらいのものです。そういったものを引き受けるならば、普天間基地の移設先はべつに沖縄でなくてもいいでしょう。

 例えばフィリピンは、米軍基地をなくし、米軍を撤収させました。議会で議決して、94年に米軍のスービック海軍基地を返還させたのです。それはそれでフィリピン国民の決断です。たとえ軍事的にどれほど不合理であっても、フィリピン軍やアメリカがどうこう言う問題ではありません。たとえそのために、米軍撤退の直後から活動を活発化させた中国によって、フィリピンが領有権を主張していたスプラトリー諸島ミスチーフ礁らが占領され、実効支配を敷かれ奪われてしまったといっても、それは一つの結果です。誰のせいにもできません。

 逆に普天間基地の機能を残すなら、県内のいずれかに移設先を求めることになるでしょう。それは軍事の論理をほかよりも優先するということで、従ってほかの論理、視点にしわ寄せがいきます。それで迷惑を被る人たちに対しては、札束で顔をひっぱたくのではなくて、あらかじめ閣僚なり何なりが現地で膝をつめて話をするなりして、納得はできないとしても堪忍してもいいと思って頂けるまで、礼を尽くしてお願いするしかないでしょう。それもまた政治の仕事です。

軍事問題を政治的に論じるときの3つの誤り

 軍事問題を考え、議論するときに犯しがちな誤りは3つあります。

 第一の誤りは軍事の論理だけで議論して他の観点を無視することです。軍事的に正しいことが、他の論理でも正しいとは限りません。また、軍事の論理が必ずしも常に優先されていいわけではないのです。

 第二の誤りは他の観点だけで考え、軍事の論理をあたかも無いもののように扱うことです。たとえその時は無視したとしても、決断から生じる軍事的な結果は、あとで必ず受け取らなければなりません。

 第三の誤りは、軍事以外の論理ででてきた結論を正当化するために、軍事の論理を都合よく曲解して「これは軍事的にも合理的なんだ」と自分や他人をダマすことです。

 以上の誤りを排するには、軍事をふくめ色々な論理を比較考慮し、生じるかもしれない結果、特にそのデメリットを理解し覚悟した上で、どうするのか決めること。それによって生じた責任はとれるだけとること。それが軍事問題を政治的に決断するということであり、「軍事は政治の道具だ」という言葉の意味なのではないでしょうか。

追記

この問題に関連し、あんとに庵さんのつぶやきをまとめさせていただきました。
たいへん重要な声だと思います。
普天間移設と沖縄の気持ちについてantonianさんのお話し - Togetter

あわせてブログのエントリーの方でも、この問題について幅広くまとめてくださってますので、強くお勧めいたします。
普天間移設に関して絶賛妄想中 徳之島問題で出て来る批判、まとめ。(追記あり) - あんとに庵◆備忘録

お勧め文献