リアリズムと防衛ブログ

防衛ってそういうことだったのかブログ。国際関係論や安全保障論について、本の感想などを書いています。

北朝鮮による韓国艦『撃沈』事件と日本

 韓国の哨戒艦「天安」が沈没した事件についてです。余り時間がないので、今回は手短に、ざっと。

沈没原因は魚雷、犯人は北朝鮮で確定

20日、ようやく正式な発表があり、この沈没が北朝鮮の魚雷攻撃による「撃沈」であったことがはっきりしました。

 韓国軍当局が発表したところによると、北朝鮮の新型潜水艇・ヨノ型(130トン級)が……26日夜に天安を攻撃し、28日ごろ基地に帰投した事実が確認されたという。  


 天安の沈没原因を調査してきた民・軍合同調査団のユン・ドクヨン共同団長は20日、国防部大会議室で、「天安艦沈没事件の調査結果」を発表、海底から回収した「決定的証拠」である魚雷後部の推進装置や、韓国軍が確保した秘密資料の分析を根拠として、「天安は北朝鮮製の魚雷による外部水中爆発の結果、沈没したという結論に到達した」と発表した。

Chosun Online | 朝鮮日報

 この調査は公平客観を期すため、国際的な軍民共同によって実施されました。また発表は念の入ったもので、回収された魚雷の残骸と、北朝鮮が持っている魚雷の設計図を対照させて提示しています。誰がどう考えても、これはもう北朝鮮が犯人に間違いない、そうとしか考えようが無い、というところまで証拠を揃えた上での発表でした。

なぜ北朝鮮は韓国艦を攻撃したのか?

 国家が武力行使を行う場合、その目的は相手に何らかの行動を強要することです。例えば北朝鮮はこれまで度々弾道ミサイルを発射したり、核実験をやったりと、軍事的威嚇をくり返してきました。それは例えば経済制裁を解除させるためだったり、食料援助を得るためだったり、体制の安全保障をとりつけるためだったりしました。要は「ほらほら、ウチはこれだけの軍事力をもってるぞ。戦争になったら痛い目をみるぞ。だから○○してくれ」という交渉カードとして、武力をチラつかせてきたわけです。

 ところが今回の哨戒艦撃沈は、ちょっと趣きが違うようです。何らかの明確な要求は無く、また北朝鮮はこの事件への関与を否定しています。じゃあ何を達成するための攻撃だったのでしょう。地域ウォッチャーならざる私にはよくわかりません。

 幾人かの専門家によれば、北朝鮮内部の都合という見方がなされています。

 専門家の多くは、「攻撃」理由として、2009年11月、黄海の北方限界線(NLL)近くで起きた南北艦艇銃撃戦で敗北した報復を挙げる。この交戦は、北朝鮮側に複数の死傷者と艦艇の損害を出す韓国の圧勝に終わり、北朝鮮軍は威信回復の反撃機会をうかがっていたとの見方が有力だ。…


…武貞秀士・防衛研究所統括研究官も「韓国軍艦を沈没させ、完全な『勝利』を残すことで軍の士気を高めることを狙った」とみる。  


……北朝鮮は昨年11月のデノミネーション(通貨単位の切り下げ)失敗で民心の急激な悪化を招いた。権力世襲を円滑に進めるためにも、軍掌握は生命線だ。哨戒艦沈没と合わせ、大量昇格で「北朝鮮軍の士気は最高の状態」との観測もある

北朝鮮の魚雷、狙いと誤算…黄海銃撃戦報復か : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

 
 つまりは「韓国艦を撃沈してやったぞ」という戦果を、外国向けには否定するとしても、自国軍内部には示して金正日体制の威信を高め、軍部を掌握するためではないか、ということです。

戦争になってもおかしくない事態

 いかなる目的であれ、殺された韓国軍の将兵46人とそのご家族にとってはたまったものではありません。異常な武力攻撃を受けた韓国としては、国家として当然の自衛として、また類似の攻撃を予防するため、何らかの罰を北朝鮮へ与えねばなりません。

 今回、北朝鮮は潜水艇から魚雷を発射して、韓国の軍艦を攻撃しました。軍隊で軍隊を攻撃したわけです。極めて戦争につながりやすい行為です。もし撃沈されたのがアメリカ軍の艦艇であれば、とっくの昔に爆撃なり巡航ミサイル攻撃なりで、北朝鮮への武力報復にでていてもおかしくありません。

 先に武力を行使したのは北朝鮮ですから、攻撃された韓国の側が自衛のために武力を用いて反撃にでたとしても、それは不当なこととはいえません。ロイター通信によれば、北朝鮮は戦争をも視野にいれている旨を発表しています。

北朝鮮は21日、朝鮮半島は戦争へと向かっており、韓国との合意をすべて破棄する用意がある、との見解を示した。

朝鮮半島は戦争へと向かっている=北朝鮮 | Reuters

とはいえ報復は困難な選択

 しかし韓国政府にとって、こうも明白な武力攻撃を受けても「北朝鮮の潜水艦基地を爆撃する」といった武力による報復は難しい選択肢です。それをきっかけに北朝鮮がヤケになって全面戦争にうってでかねなず、そうなれば戦場となる韓国の被害は計り知れないからです。

 ですから、もし武力報復をやるとしても、北朝鮮の基地1つか2つくらいだけを爆撃するような、限定的な作戦になるでしょう。韓国の側から全面戦争に打って出ることはまず考えられません。

 しかし何かの間違いで、万が一にも全面戦争(第二次朝鮮戦争)になれば、韓米軍を中心とする国連軍が恐らく圧勝するでしょう。(第一次)朝鮮戦争のときは、韓国を守るために国連軍が編成されました。韓国軍、アメリカ軍を中心とし、ほかイギリス、フランス、ベルギー、オランダなど多くの国による連合軍です。現在は休戦中となっている朝鮮戦争ですが、もし再開されれば再び国連軍対北朝鮮という枠組みで戦闘になり、そして北朝鮮は負けるでしょう。

 しかしたとえ勝ったとしても、韓国の被害は甚大なものになります。韓国の首都ソウルは北朝鮮との国境線に近すぎるし、北朝鮮の特殊部隊が潜入してきて破壊活動にでる見込みも大きいといわれています。さらに戦後には、北朝鮮という恐ろしく貧しい国を韓国主体で復興せねばならなくなるでしょう。こう考えると、どれだけの人的、経済的損失が生じるかはかりしれません。

 また、全面戦争時、北朝鮮との戦いには勝てるとしても、中国がどう動くかが分かりません。かつて国連軍がピョンヤン(平壌)を陥落させ、北朝鮮の全土制圧に王手をかけたとき、中国は「義勇軍」と称し、北朝鮮側に立って事実上参戦してきました。韓国によって朝鮮半島が統一されれば、アメリカ寄りの統一朝鮮が誕生することになりますが、中国はそれを容認できなかったたのです。第二次朝鮮戦争でも国連軍の完全勝利は中国を刺激せざるを得ず、何が起こるか分かりません。

 そういったリスキーな事態を避けるため、韓国はたとえ限定的なものであっても、軍事報復オプションは避けようとするでしょう。また韓国世論もこれを避けたがっています。よって韓国、米国政府は報復攻撃には慎重になり、それ以外の制裁を行う方向で動くでしょう。

韓国は国際社会と協力しつつ、経済的・政治的な報復にでる

 韓国のリアクションについては、こう報道されています。

韓国はこれまで、経済回復への影響を懸念し、北朝鮮に軍事的な報復措置に出る計画はないことを明確にしており、国際社会と協力して北朝鮮への制裁強化などを求めていく考え。

朝鮮半島は戦争へと向かっている=北朝鮮 | Reuters

 具体的にはどういう制裁が考えられるでしょうか? まずは国連安保理で対北朝鮮制裁決議を通すこと、韓国が単独でできることとしては南北経済協力を全面中止することです。アメリカが積極的に制裁をやってくれるならば、テロ支援国家の再指定、金融制裁などが考えられます。

 軍事的対処としては米韓両海軍の共同訓練や警戒によって圧力を加えることです。攻撃は行わないにしても、再発予防のために軍事的圧力も必ずやかけられるでしょう。それは韓国だけでなく、アメリカも同盟国の信義にかけて、協調します。

 その一端はすでに垣間見えます。沖縄の米軍基地にステルス戦闘機を一時的に配備するそうです。

沖縄の米空軍嘉手納基地報道部は21日、最新鋭のステルス戦闘機F22Aラプター12機が来週後半から同基地に4カ月間、配備されると発表した。平成19年以降、4回目の暫定配備となる。

MSN産経ニュース

 F22ラプターの部隊は、ここ数年、ちょくちょく沖縄にやってきています。その配備タイミングは、北朝鮮情勢が不穏になった直後が多いです。つまりは戦力増強によって「北朝鮮にとっては防ぎようが無い、ステルス戦闘機を用いた攻撃を、いつでもやれるんだぞ」と、無言のメッセージを送っているのです。

 このような軍事的な圧力、報復にはでないまでも強い圧力を背景に、まずは国連安保理での制裁決議が、ひとつの焦点となるでしょう。その場合、北朝鮮を擁護する立場にある中国をいかに動かすかが鍵となるでしょう。

 また、さらに先の話としては、安保理のお墨付きをもって経済制裁を行うとしても、北朝鮮がそれに反応してヤケになり、また武力行使にでてはたいへん困ります。よって制裁にあたっては、北朝鮮の出方を見きわめながら、実効性をあげつつ、過剰反応を呼ばない慎重さが必要となるでしょう。

日本は疑いもなく当事者

 この事件は日本にとっていかなる意味を持つのでしょうか? まず明確なことは、日本はこの件について、思いっきり当事者の一員だということです。事件は海の向こうの朝鮮半島で起こっているからといって「対岸の火事」だと思ったら大間違いです。日本の意識がどうあれ、本来、既に当事者なのです。それには多くの理由を挙げることができます。

●北朝鮮は日本にとっても脅威

 まず第1に韓国艦が撃沈され、韓国の国民が殺されたということは、日本も同様の攻撃を受けてもおかしくない、ということです。

 この件では北朝鮮の攻撃力が意外と高いことが示されました。「北朝鮮が日本を攻撃して何かメリットがあるの?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、韓国艦の撃沈にみられるように、北朝鮮のような独裁国家は、他国には計り知れない理由で、とんでもないことをやらかすことがあるのです。

 今回の事件が示した北朝鮮の危険性は、距離的に近い日本にとっても安全保障上の脅威なのです。

●日米同盟と韓米同盟は一体

 第2に、この事件への対応は被害者である韓国を先頭に、韓米同盟の枠組みで行われますが、この場合に韓米同盟と日米同盟は不可分だということです。

 韓国は攻撃を受けた被害者であり、韓国への攻撃は同盟国であるアメリカへの攻撃にほぼ等しいです。同盟国はいざとなれば一蓮托生です。そしてそのアメリカと日本は同盟しています。日本は韓国とは同盟していませんが、間にアメリカを挟んで間接的に韓国の盟友です。

 また、朝鮮半島有事の場合、軍事的にみれば米韓同盟と日米同盟は切り離せない1つのシステムです。例えばアメリカの戦闘機F22ラプターが、牽制のために配備されたことは前述の通りですが、その場所は沖縄県です。また、第一次朝鮮戦争の際に韓国を救った仁川上陸作戦は、海兵隊を中心とする在日米軍によって行われました。これらの事実から明らかなように、もし朝鮮半島で戦争になれば、韓国軍、在韓アメリカ軍、在日アメリカ軍は1つのシステムとして動きます。また、そうなれば日本も周辺事態法を発動し、自衛隊を後方支援へ投入する見込みは小さくないでしょう。

 このようなわけで、こと半島有事において韓米同盟と日米同盟は一体ですから、万が一にも有事の可能性をみすえて動く以上、日本はとっくの昔に韓国と同じ陣営へ所属しているのです。

●日本は安保理の非常任理事国

 とはいえ前述のように、できるだけ戦争は避ける方向で誰しもが動くでしょうが、そうなると変わって言葉の戦争が繰り広げられるのが、国連の安全保障理事会です。そして2010年現在、日本は日本は非常任理事国に選ばれており、その理事会の議論に参加します。日本が他人事だと思っていられない第3の理由がこれです。

 北朝鮮に対して有効な制裁ができるかどうか、その鍵を握るのが安保理での議論です。そこに議席をもっている以上、日本がこの件についてどういう意見を持っていて、安保理でどういう意見を出すのかは、今後の事態に影響してきます。

 このように、北朝鮮は日本にとっても脅威であり、韓米同盟と日米同盟は一体であり、そして日本は国連安保理に席を持っている以上、韓国艦撃沈事件において、日本はすでに当事者なのです。

協調、避戦、制裁

 よって日本は韓国側の陣営に属する一国として、韓米に協調しつつ、有効に動くことが、本来は求められます。

 とはいっても北朝鮮への制裁で「先頭に立つ」のは、被害者である韓国の役目です。日本の座る席ではありません。

 ただし、事態が有効な落とし所にたどり着くよう、力を尽くすことは、日本の国益にもかないます。前述の通り、北朝鮮は日本にとっても脅威ですし、万が一にも半島で戦争再開ということになれば、日本は無関係でいることなど不可能だからです。

 よってそのような意味で、韓米と協調して安保理決議と対北制裁をめざしつつ、万が一にも戦争にはならない落とし所にもっていくべく、「ある意味で先頭に立つ」くらいの意気込みで動く、ということはまさに望ましいことでしょう。地域の安定のためにも、日本国民の安全のためにも。

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