リアリズムと防衛ブログ

防衛ってそういうことだったのかブログ。国際関係論や安全保障論について、本の感想などを書いています。

事故か、事件か? ホルムズ海峡で日本のタンカーに爆発

 商船三井が保有するタンカー「M・STAR」がホルムズ海峡で爆発事故を起こしました。原因はまだ不明ですが、何者かに攻撃された疑いがあります。もしこれが波や過失による事故ではなく、何者かによる攻撃事件だったとしたら? 日本を含む多くの国にとって安全保障上の脅威になるでしょう。なぜならホルムズ海峡は世界の大動脈だからです。

原因は波か、光か

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 爆発は現地バーレーン時間で午前3時30分ごろに起きました。タンカー右舷の後部で爆発が起こり、ドアが吹き飛ぶなどの被害がでました。その時に飛び散ったガラスによって船員が1人負傷されたそうです。幸いにも死者はゼロ。運航にも支障はなく、タンカーは自力でアラブ首長国連邦の港まで帰り着くことができました(時事通信7/28他)。

 なぜ爆発が起こったのでしょうか? イラン当局や近くの海上警備隊らは「地震で起こった波のせい」だと言っています(WSJ "Rogue Wave Is Suspected in Mideast Tanker Blast" )。イランで発生したマグニチュード3.4の地震が波を起こし、それがタンカーを襲ったのだ、というわけです。

 しかし、船員の証言によれば、タンカーを襲ったのは波ではなく、人間のようです。商船三井によれば船員は、爆発の直前、水平線上に何らかの光が見えた、と言っているそうです(毎日 7/28)。その上、船体の被害状況をみても、「原因は波だ」という説は怪しいようです。

商船三井は29日、「原因は異常な波」と海外メディアなどが報じたことについて、「アッパーデッキに入るドアが破損しているが、周囲はぬれていない。波が原因とは考えにくい」と述べた。

社会 - 毎日jp(毎日新聞)

 これら現時点での情報をみると、原因は波よりも光が怪しいようです。船員の見た光が、何らかの武器が使われた際に火薬が発したのであり、直後に起こった爆発はその攻撃かもしれません。タンカーは事故に遭ったのではなく、攻撃を受けた疑いがあります。

海賊か、テロか、それとも?

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 もし攻撃だとすれば、犯人は誰でしょうか? まず考えられるのは海賊、次いでテロリストです。

 ソマリア周辺の海賊が遠出した可能性があります。以前からの狩り場であったアデン湾近くを世界各国の軍艦が見張っているので、ホルムズ海峡まで移動したわけです。遠くまで行ってから襲撃するとなれば襲える回数が減り、燃料は多くかかり、海賊ビジネスには不経済です。とはいえ軍艦のせいで商売がやりにくいとあれば、嫌々でも別の狩り場を探さざるをえません。そこで昨年から、ホルムズ海峡付近で海賊の目撃例が話題になっていました。

アデン湾周辺での海賊対策強化を受けて、ソマリア及びイエメンの海賊が交易量の多いアラビア湾へ移動している可能性があり、ドバイに寄港するダウ船員の間では、ホルムズ海峡周辺での海賊によるダウ船襲撃やニアミスが話題となっている。(13日付ハリージュ・タイムス)

Consulate-General of Japan in Dubai

 仮に海賊だとすれば、大物を狙って失敗した、ということでしょう。タンカーを停船させるべく撃ってみたものの、大したダメージを与えられなかったので諦めた、という線です。

 もう1つの可能性はテロです。アルカイダやその周辺組織による犯行であれば、カネ目当てではなく、脅威を与えることそれ自体が目的ということになるでしょう。あるいは近隣の国……たとえばイランなどが関与していることも、考え難いですが、絶対に無いとは言えないかもしれません。

 その辺りは続報を待つ他ありませんが、いずれにせよこの件が波ではなく攻撃によるものなら、日本をふくむ多くの国にとって安全保障上の脅威です。場所が場所だからです。

ホルムズ海峡の重要性


 タンカーM・STARは、アラブ首長国連邦(UAE)で原油を積み込み、日本の千葉県に向かって航行中でした。日本が原油の大半を中東から輸入しています。今回の事件はその輸送ルート上で起こりました。このような事件が頻発すれば、日本を含め、多くの原油輸入国に影響を与えることになります。原油は経済にとって血液のように重要だからです。

 まして、事件が発生したのはホルムズ海峡です。世界で消費される原油のうち、実に約20%が通過しています。世界広しといえど、このように重要な海路は数えるほどしかありません。マラッカ海峡パナマ運河バシー海峡ジブラルタル海峡など。

 こういった狭く、重要な水路を「チョーク・ポイント」と言います。人の体で言えば、太い動脈のようなもの。切れれば、被害は甚大です。

チョーク・ポイントは海洋安全保障のカナメ

 このためチョーク・ポイントをコントロールできる国は大きな影響力を持つことができます。従ってチョーク・ポイントの支配権を巡って紛争が起こり易い場所でもあります。

 たとえば最近、イランはホルムズ海峡を脅かす力を強化してきています。潜水艇を増やし、有事の際にはホルムズ海峡を封鎖し、世界経済に大ダメージを与えられることをアピールしています。そういう潜在的能力を持つことで、交渉力を得ようというわけです。核開発をやろうとして多くの国から大反対を食らったことへの対抗です。

 このように重要な場所で、重要な原油を運ぶタンカーに起こった事件ですから、今回の一件は重要です。海賊であれ、テロであれ、今回の一件がもっと本格的な襲撃の前触れであれば――動脈が度々切れそうになるとすれば、手当てをしなければならないからです。