リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

黄海でアメリカと対立する中国

 アメリカと韓国の合同海軍演習に対し、中国は盛んに演習を繰り返して対抗姿勢を示しています。

黄海での米韓合同演習

 先日もこのブログに書いたことですが、米韓軍による合同演習に中国が反発しました。演習は天安沈没事件への対抗として、北朝鮮を念頭に於いて行われます。アメリカの空母を中心とし、多数の海空戦力が参加する大演習です。

(引用元:米海軍)

 しかしその実施海域が黄海を予定していたので、中国の反発を呼びました。黄海は中国の防衛戦略上、近海防衛の舞台となる海域の一つだからです。有事の際ならば、黄海にアメリカの空母が入ってきて自由に活動したら、中国は首都上空まで米軍機に侵入されてしまいます。

 そのため米韓は多少の遠慮を示してか、最初の演習場所を黄海から日本海へと変更しました。しかし報道によれば、米韓は予定通り、黄海でも演習を行うつもりだそうです(8/6 朝日)。

 こういった事案について、米中では国連海洋法条約の解釈が分かれています。アメリカは公海での軍事演習は自由だという解釈をとり、中国は沿岸国の管轄権を主張しています。たとえ公海であっても排他的経済水域EEZ)の内側での軍事演習は沿岸国の許可を得ねばならないという主張をしています。

 ここような意見対立の背後には、そもそも米中の海洋戦略が構造的に対立しているという背景が見て取れます。これについては以前ざっと書きました。(過去記事)

中国軍が黄海で演習

 米韓海軍の黄海演習に反対する中国は、このところ立て続けに海軍演習を行ってその戦力を誇示しています。8月3日には黄海で中国軍による大規模演習がはじまりました(時事通信8/3)。

新華社電によると、黄海に面した中国人民解放軍・済南軍区(山東省)で3日、兵力約1万2000人を動員した大規模な防空演習が5日間の日程で始まった。……「前衛2010」と名付けられた演習は、首都の防空作戦をテーマに、同省のほか隣の河南省でも展開。


定例演習の一環とされるが、米韓両国が黄海での合同軍事演習を行う計画を堅持しているほか、米国は南シナ海の領有権問題で中国に強硬姿勢を見せており、今回の演習にはこうした動きをけん制する狙いもありそうだ。

時事ドットコム

 首都防空、つまり北京周辺が外国の航空戦力に襲われたときにどう対処するかがテーマです。この演習と、黄海で米韓が予定している演習の関係は、地図でみれば分かり易いでしょう。

 中国軍の防空演習が行われた山東省は、黄海と北京のあいだに張り出しています。東・南方から北京に迫る敵の空軍を、手前の山東省で阻止する構えです。また他の地方でも比較的大規模な演習が相次いでいます。これらは単なる訓練という意味のほかに、予定されている米空母の黄海演習を意識して、それへ対抗する能力と意志を示すものとみられます。

相次ぐ演習について香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは「米空母に対抗はできなくとも、上陸を阻止する力はあると示す狙いがある」という専門家の見方を紹介している。

毎日jp(毎日新聞)

 また黄海のほか、南シナ海でも中国とアメリカの対立構造が明らかになりつつあります。中国とASEAN諸国の間には南シナ海での領土問題があります。太平洋の秩序維持者であるアメリカは、平和的解決を支持するという形で南シナ海問題に関与する姿勢を示しており、中国からみれば邪魔です。

 南シナ海問題については改めて別の記事としますが、ともあれ米中の海をめぐる対立は各所で少しずつ顕在化しつつあります。それらは米中間の武力衝突をすぐに惹起するような差し迫ったものではありません。しかし時期や地域を越えて対立がみられることをみても、個々の対立は偶然ではなく、前述のように米中の海洋戦略が突き詰めれば相容れないことから起こっているとみるべきでしょう。

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