リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

文庫化された「地球連邦の興亡 第1巻」は書下ろし短編付き(だが完結はしない)

地球連邦の興亡1 - オリオンに我らの旗を (中公文庫)

地球連邦の興亡1 - オリオンに我らの旗を (中公文庫)

 

 ついに地球連邦の興亡1が文庫化再販されました。まさかこんな日が来るとは…。表紙は女学生の鈴音ですね。

以前から予約していたので、発売当日にアマゾンから届き、読破しました。次巻以降の波乱を予感させる「地球連邦は・・・・を欲している。」の後に続きがありました。

書下ろしの短編です。

最近の佐藤大輔は皇国の守護者の文庫化にあわせて短編を次々と書き下ろしてくれていますが、今回も。「地球連邦」世界の短編です。

もと首相 国場敏和

主人公は若き日の国場敏和。

本編では地球連邦のもと首相、すでに引退した老人です。すでに引退したとはいえ、歴代首相の中でも最も決断力に富み、悪辣な策謀に長けた底の知れない老人として描かれています。(なお、国場は旧新書版では国場義昭でしたが、ファーストネームが変更されたようです)

本編の要所要所に登場し、現首相の密命を受けて怪しげな任務に従事しています。これから発生しようとしている大波乱が、やがて拡大し、そして集束するその点を既に見据えて、布石を打っている(らしい)様が描かれています。

首相時代の策謀家ぶりを感じさせ、暗躍する老雄といった趣きで、作品世界に奥行きを添えています。

文民統制の逸脱、命令違反スレスレで、独走する軍人たち

国場もと首相はまた、本編の主人公たる南郷少佐の「先例」として登場します。政界入りする前、若き日の国場は連邦宇宙軍の軍人でした。そして、何かよほど果断な決断を下したようなのです。

本編において主人公・南郷は、「一般待機命令」を柔軟に解釈して、多くの市民を救うべく大胆な行動に出ます。「一般待機命令」とは要するに「何もするな。何かしろ、という命令を待て」ということ。武力の行使は禁止。武器の使用も、正当防衛の場合を除いて禁止。軍隊としての実力は何一つ発揮できない、はずでした。

ただし、待機命令下にあっても、宇宙軍の軍人としての義務まで「するな」というわけではないはずだ…ということから、南郷は状況にあわせて命令を「柔軟に解釈」していきます。一歩間違えれば軍隊の独走、文民統制からの逸脱、反乱行為です。

それを決断するため、一般待機命令の柔軟解釈について先例を調べます。3人の先例があり、そのうち2人は軍を追放されていました。

しかし最後の1人が若き日の国場大尉。その事件こそ、「ハイリゲンシュタット事件」だったのです。

謎のハイリゲンシュタット事件

第1巻の本編では、金持ちの父親をもつ若手の演出家が、シェークスピアの「オセロー」をこの事件に擬した(面白くない)芝居を上演しているさまが描かれています。

このことから、よほど有名かつ劇的な歴史上の事件らしい、ということが伺われます。

しかし、事件の詳細は明かされません。時に「ハイリゲンシュタットの虐殺」と意味深に呼ばれることもありますが・・・その内実は謎のままでした。

謎の事件の真相が明かされる(続巻以降で)

文庫版1巻の書下ろし短編では、フィールドワーク中に連絡を絶った大学教授を救うため、若き国場敏和大尉が救難任務に赴きます。その惑星の名は「ハイリゲンシュタット」、あの事件に違いありません。いったい、どんな事件だったのか、ついに真相が明らかになる、はずです。

はずというのは、この短編、第1巻だけでは完結しないから。どころか舞台と装備と登場人物紹介の導入編といった趣きです。惑星とパワードスーツ歩兵の細やかな描写に読みいることはできても、事件の細部にはまだ立ち入っていません。

ううむ、続きが気になる・・・。

佐藤大輔のことですから続きがでないのでは、という心配もありますが、短編ならば最近はコンスタントに発表しているので、たぶん大丈夫でしょう。短編が書き上がらないがために2巻以降の文庫化が遅延する、なんてことは・・・ないといいなぁと思います。

地球連邦の興亡1 - オリオンに我らの旗を (中公文庫)

地球連邦の興亡1 - オリオンに我らの旗を (中公文庫)