リアリズムと防衛を学ぶ

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潜水艦の抑止力と強み

「潜水艦」という軍艦がある、ということはたいていの人が知ってるんじゃないだろうか。映画「レッドオクトーバーを追え」や、漫画「沈黙の艦隊」などで登場しているからだ。

だが「で、潜水艦ってどんな艦よ?」というと「潜るんでしょ」ということのほかはあまりよく知らない人が多いのではないだろうか。

ちょうど岡部いさく氏(著名な軍事アナリスト)がオハイオ級原子力潜水艦についての記事を書いておられたので、それを引用しながら、潜水艦の強みについて書いてみたい。

オハイオ級潜水艦の任務と抑止力

オハイオ級原子力潜水艦は、昔は核ミサイルを積んでいたが、今は巡航ミサイルを積んでいる。昔は核抑止が仕事だったが、今は通常戦力による抑止が任務、ということだ。

岡部氏によれば、最大145発のトマホーク巡航ミサイルを搭載できるそうだ。オハイオに積まれているトマホークミサイルは対地攻撃用だ。陸上にある軍事施設を攻撃する際に使われる。海中から突然ミサイルが出現して、敵の基地・・・例えば北朝鮮のミサイル基地や軍港なんかに向かっていくシーンをイメージするといい。

また、オハイオは特殊部隊を収容することもできる。

トマホーク巡航ミサイルとともに、オハイオは特殊部隊隊員を最大66名搭乗させることができ、甲板上にはそれら特殊部隊が海中から侵入するときに用いるSDVという小型潜航艇の格納筒DDSを搭載できます。


BizPlus:コラム:岡部いさく氏「岡部いさくのコマンドポスト」第18回「“見えない抑止力”巡航ミサイル原潜オハイオ」

このようにオハイオ級潜水艦は巡航ミサイルや特殊部隊を積んで海中に潜むことで、沿岸国に対する抑止力として機能している、と岡部氏は書いておられる。

本来、潜水艦は姿を見せないことが最大の威力です。港を出ていったん潜航してしまうとどこにいるのか、どこを行動しているのかわからない、という点が潜水艦の最も恐ろしいところです。相手側の海軍としては、いるかいないかわからない潜水艦に対して、いるかもしれないという前提で作戦を立てなくてはなりません。潜水艦がいそうな海域を迂回したり、対潜作戦のために戦力を割いたり、針路をジグザグにとって航行したり、潜水艦がいるという可能性だけで海軍の作戦は大きな制約を受けるのです。ましてやオハイオのように強力な対地攻撃力を備えた潜水艦が、どこか近海にいるかもしれないとなると、これを脅威と考える国は厳重な対潜警戒態勢をとらなくてはなりませんし、対潜能力の乏しい国―たとえば北朝鮮が当てはまります―に対しては、オハイオは大きな抑止力になるはずです。


BizPlus:コラム:岡部いさく氏「岡部いさくのコマンドポスト」第18回「“見えない抑止力”巡航ミサイル原潜オハイオ」

潜水艦の3つの強み

上の引用部にも書いてあるように、潜水艦の抑止力はそこに搭載したミサイルや部隊だけではなく、「海中に隠れる」という特殊性にも因っている。

これをもう少し詳しく言うと、潜水艦という艦の強みは以下の3つに分けられる。

  1. 隠密性
  2. 攻撃力
  3. 長期滞洋性

第一にまず隠密性についてだ。これは潜水艦の最大の強みとされている。

水中に隠れ、敵にその存在を知られないため、主導権を握ることができる。敵の不意をうって、好きな時に目標を攻撃できる。もしこちらが不利なら敵をやり過ごすことも可能だ。敵の立場からすれば、いつどこから攻撃されるかわからないので非常な警戒を要求されることになる。

第二に攻撃力についてだ。潜水艦の攻撃力は主に魚雷だ。魚雷は爆弾にスクリューがついたようなものだ。海中を進んでいて、敵艦にあたると爆発する。また最近では、ミサイル、特殊部隊などを積む場合もある。

第三に長期滞洋性だ。他の軍艦に比べて長い期間、海に出ていられる艦が多い。海上自衛隊が持っているような大型の潜水艦や、アメリカ海軍などがもっている原子力潜水艦の場合、この強みはさらに顕著だ。

護衛艦(DD)が1週間も行動すれば燃料その他の補給を受けねばならないのに、潜水艦は長ければ数ヶ月、補給なしで活動する場合がある。アメリカ海軍の原子力潜水艦なら最長で3ヶ月、潜りっぱなしで任務についている。(もっと長く潜ることもできるのだが、乗組員の社会性を維持するために期限を設けているそうだ)

まとめると、潜水艦は海中に隠れ、強大な攻撃力(ミサイル、魚雷等)を持ち、水上艦とは比較にならないほど長期間に渡って活動できる、ということだ。

この強みがあるため、岡部氏が書いておられるように、仮想敵側からすれば「攻撃力を持った潜水艦が、いつどこにいてもおかしくない」と感じられるので、迂闊なことはしづらい、という抑止力が発生することになる。