リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

なぜどこの国も空母(航空母艦)を持ちたがるのか?

中国が空母(航空母艦)を保有しようとしている、というニュースが話題になってます。インドも国産の空母の建造を開始しました。以前から空母を持っているイギリス、フランス、ロシアも新型空母の建造を計画中です。

なぜこんなにも、そこそこ国が大きくなると、誰も彼も空母を持ちたがるのでしょうか? 僕の分かる範囲で書いてみます。

結論から言うと、空母を持つことは「わが国は大国だ」という証明書です。空母を持つことで他国への強制力が向上し、大国として国際社会で振舞える可能性が高まります。

そもそも空母って何?

空母(航空母艦)は航空機を積んだ軍艦のことで、その特性により海の王者、海軍力の中核として運用されています。

空母の特性は航空機を積めることです。なお空母に積んだ飛行機を艦載機といいます。

艦載機を積むため、空母は他の軍艦と大きく異なった外見をしています。航空機には飛行場が必要です。そこで空母は甲板の上に滑走路(またはその代わりになるもの)を設けているので、平らな見かけをしています。いわば海上を動く飛行場です。


イギリス海軍 インビンシブル級 軽空母

20世紀はじめ頃には戦艦が海の王者として信じられていました。しかし空母は「航空機を運べる」という特性によって、戦艦を圧倒しました。


世界最大の戦艦であった大和級でさえ、その大砲の射程は40キロに過ぎませんでした。

しかし空母の射程距離、つまり艦載機の航続距離は当時でさえその10倍の400キロ程もありました。戦艦は空母によって遠くから一方的にボコボコにされてしまったわけです。

空母の艦載機は攻撃力だけではなく、偵察や警戒、そして陸上部隊への支援も行います。一隻あると非常に便利なのです。

だから空母はほとんど万能の艦として、現代の海軍力の中核を担っています。

空母を持つとできる3つのコト

空母を持つと、具体的には何ができるようになるのでしょう。例えば以下のようなことです。

艦隊の外洋展開

空母を持つことで、自国の沿岸から遠く離れた外洋に軍艦を派遣できるようになります。

航空機の攻撃力は軍艦にとって大きな脅威です。だから敵の航空機が上空を支配している地域に、味方の軍艦を入れるとは非常に危険です。


航空機のミサイル攻撃で炎上する軍艦シェフィールド(イギリス海軍 1982年)

こんなことにならないよう、味方も戦闘機を上空に上げて、敵の航空攻撃から艦を守る必要があります。これを「エアカバー」といいます。

遠く外洋となると、陸上からで戦闘機では届きません。戦闘機は旅客機と違い、太平洋を横断するほどの距離は飛べないのです。

よって有事に外洋に艦隊を出して活動させたければ、空母を同行させてエアカバーを提供する必要があります。

艦隊は空母によって始めて外洋で作戦できるようになる、といっても過言ではありません。(ただし敵がまともな航空戦力を持ってない海域なら、必ずしもこの限りではない)

パワー・プロジェクション

空母によって可能になる艦隊の外洋展開によって、海外へのパワー・プロジェクション(戦力投射)ができるようになります。

パワー・プロジェクションとは、自国の言うことを聞かない国をぶん殴りに行くことです。

冷戦時代の旧ソビエトの空母「ミンスク」の例を見てみましょう。冷戦時代、自衛隊のトップを務めたことがある故・栗栖もと陸将の著書をみてみます。ミンスクを配備することで、ソ連は日本へのパワー・プロジェクション能力を大きく強化しました。なぜなら、

日本海沿岸であるなら、どんなところでも小規模な奇襲上陸をかけられる能力を、ソ連がいまやもつに至ったからだ。

それを具体的に証明するものが、キエフ型空母「ミンスク」とそれについてきた上陸用強襲艦「イワン・ロゴフ」の極東配備なのである。
「仮想敵国ソ連」栗栖弘臣 p107


空母ミンスクの艦載機は戦闘機12機、対潜ヘリ20機に過ぎませんでした。これは空母としては大した戦力ではないので、

米国にとって…大した脅威ではないだろう。しかし、わが国にとって、これは一大脅威である。その脅威が憂慮すべき現実の事態にならないとは、だれも断言できない。
同 p111

と警鐘を鳴らしています。

空母の保有はこのように海外へのパワー・プロジェクションを可能とし、大きな脅威を近隣国に与えることができるのです。

プレゼンス効果による強制力の発揮

実際に攻撃しないまでも、それが可能である、という無言の威圧効果(プレゼンス)によって発言力が強まります。

例えば1996年3月の台湾海峡ミサイル危機です。台湾が独立志向を強めたため、中国は台湾沖で軍事演習をやって台湾を脅しました。あわや中国による台湾侵攻が起こるか、という戦争一歩手前の事態でした。

アメリカはそこに2隻の空母を中心とする艦隊(CBG)を派遣。中国と台湾の間の台湾海峡に割って入りました。それによってアメリカの強い意志を伝え、戦争を未然に防ぎ、台湾海峡の勢力関係を維持しました。

当時のペリー国防長官はこれを「CBG外交」と呼び、空母のプレゼンス効果に積極的な効果を与えています。「いざとなれば俺の空母が火を噴くぜ。それでもやるかい?」というわけです。

まとめ あの国もこの国も空母を持ちたがる理由

以上をまとめると、空母を持つことで遠くの国をぶん殴ることを可能となり、それよって発言力を得られる、といえるでしょう。

そしてこの「遠くの国にも言うことを聞かせられる」という能力こそ、大国の条件です。

大国とは国際社会で大きな影響力を持つ国のことです。いいかえると、自分にとって都合のいい行動を多くの他国に強制できる国のこと。そして強制力の源泉は軍事力、すなわちパワープロジェクション能力に裏打ちされたプレゼンスです。

空母によって得られる世界各地へのプレゼンスが、その国の世界的な発言力を裏付けることになります。

この効果を完全に代替ができる兵器は今のところ存在しません。海上戦力はあいかわらずエアカバーを必要としています。そして本土を遠く離れた外洋にまで戦闘機や早期警戒機を展開する手段は、空母以外にはありません。

本当に有力な国(例えばアメリカ)なら海外に航空基地をおけば多少は代替できるかもしれませんが、ほとんどの国にとって世界中に基地を持つなど不可能です。

やはり大国としてのプレゼンスを発揮したければ、空母を運用する他なさそうです。

いままさに「大国入り」を目指している中国、インドといった成り上がりの国がこぞって空母保有に血道をあげるのは、これが理由です。大国として振舞えるようになるためには相応の実力を持つこと。つまり遠くの国へもプレゼンスを発揮することで、すなわち空母を持つことです。

逆に、もう既に「大国」と看做されているアメリカ、ロシア、イギリス、フランスはその地位を維持するために、やはり空母を必要とします。

空母こそは大国たるのパスポートだ、といえるかもしれません。