海上自衛隊のソマリア沖派遣に反対しているピースボートが、しかし海上自衛隊の護衛を受けたというのでニュースになっています。(防衛省)(ヤフー・ニュース)(産経社説)
海賊対策のためアフリカ・ソマリア沖に展開中の海上自衛隊の護衛艦が、民間国際交流団体「ピースボート」の船旅の旅客船を護衛したことが13日、分かった。ピースボートは海賊対策での海自派遣に反対しており、主張とのギャップは議論を呼びそうだ。
(中略)事務局の担当者は「海上保安庁ではなく海自が派遣されているのは残念だが、主張とは別に参加者の安全が第一。(旅行会社が)護衛を依頼した判断を尊重する」と話している。
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ピースボートが名をつらねている声明というのはこちら。
海賊対策に名を借りた憲法違反の派兵法「海賊処罰取締法」に反対する。
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武力で平和はつくれない。軍艦の派兵ではなく、平和的な民生支援を。
当初は「反対、でも守って」という釣りっぽいタイトルだったこともあり、はてなブックマークが400件に迫っています。
(はてなブックマーク - ピースボート護衛受ける ソマリア沖 - MSN産経ニュース)
寄せられているコメントはピースボートを含む、いわゆる平和団体の皆さんの矛盾を批判、罵倒するものが多いようです。他には「自衛隊も大変だな」という言葉も散見されます。
とはいえ、自衛隊がピースボートなどの平和を愛する皆さんを守ってきたのは、昔からのことです。参考までに、ピースボートの皆さんと自衛隊の平和な関係を一幕だけご紹介します。
カンボジアで自衛隊宿営地を訪問したピースボートの皆さん
カンボジアPKO(92年)に自衛隊が派遣された時のことです。
自衛隊はカンボジアで道路などインフラ設備の修復を始めとする復興支援を行っていました。
道路補修にあたる自衛隊
その際、ピースボートの皆さんは暑い中、わざわざ自衛隊宿営地を訪問されました。その模様をかの「不肖・宮嶋」氏が書いておられます。*1まずは復興支援のための採石場であるトティエ山駐屯地に、ピースボートの皆様がご訪問された時のこと。
さすがに自由を愛する方々である。一行はてんでばらばらに行動され、まったく統制が取れていない。
(中略)
無視されつつ頑張っていた太田三佐が、質疑応答を始めると、ようやく人びとが集まってきた。…その目は敵意に輝いている。いまなおこんなに戦意旺盛な同胞がいるのかと、私は感心する。カンボジア環境問答―地雷の上の環境問題
その表情そのままに、敵意あふれる声で質問が飛んだ。
「この山では一日どれだけの土砂を採るのですか?」
太田三佐が丁寧に数字を答える。質問者はしてやったりと声を励ます。
「それだけ採って、環境への影響は?」
「は?」
さしもの三佐も目をぱちくりさせている。「ですから、雨が降って、土砂が水田に流れ込むなどにより、環境への悪影響があるでしょう。それは調査してるんですか」
それは異様な光景だった。背後の兵舎には、汗とドロにみれ、基地にすら帰ることができぬトティエ駐屯の将兵が、埃まみれで死んだようになっている。
(中略)しかし、太田三佐は誠実に答える。
「正直言って、環境の調査は行っていません」
答える三佐の顔がやや紅潮する。
「そりゃあ、環境への影響はあるでしょう。しかし、私たちの仕事は、選挙をスムーズに進めるために、橋や道路を修復することです。そのためには採石場が必要なのです。私たちがしていることは、将来的にも、きっとカンボジアの人たちの役に立つと信じています」
堂々、太田三佐は言い切った。言い逃れも一切しない、立派な態度であった。
p183
民主主義の藩屏と、それに守られた自由な言論、その正しい関係で。多様な意見が存在することは良いことです。
続いてご一行は、自衛隊の中心的な宿営地であるタケオ基地を訪問されました。
国連旗の前で記念写真を撮る方、荷物運搬車に乗り込んでしまう方、そこらの建物に勝手に入ってしまう方。まことに自衛隊は民主的軍隊である。イランあたりでこんなことをすれば、すぐに数名の射殺者が出ていたであろう。自衛隊は、数名の広報が声を嗄らして幼稚園の先生のように走り回るだけであった。
「あ、そこの人、隊員のテントに勝手に入りこまないでください」
「お願いですから、ちゃんと団体行動してください」さすがの切れ者、山下一尉も疲労困憊した表情で呟く。
「わしらはツアー・コンダクターか……」
自衛隊迎撃部隊は、劣勢を余儀なくされていた。
ピース・ボート部隊は、さらに頭脳的な作戦に出た。兵站の道を絶つは、バルチザン型攻撃の基本である。彼らは、基地の厚生センターに集中攻撃をかけ始めたのである。
「おおっ、キリンビールが七〇円だって」
自衛隊がシンガポールから苦労して運んで来た糧秣に目をつけたのである。慌てて、山下部隊が、これの阻止に回る。
「そこの人、飲物は隊員のための物です。皆さんが飲むと、隊員の分がなくなってしまいます」
引き続き、駐車場で、ピース・ボートのメンバーと隊員との対話集会が開かれた。なんだか、その内容はオフレコとのことで、辻元さんはピリピリしていたが、結局この時のピース・ボートの方々の質問は産経新聞が書いてしまったので、私も記念に書いておこう。
「従軍慰安婦を派遣するというウワサがあるが」
…
「隊内でコンドームを配っているとか。(相手の隊員を指差して)あなたのポケットにもあるんでしょう」
…
「防衛大学では、帝国時代の軍人を尊敬している人がたくさんいるんでしょう」
…
などなど。
やがて、一同はまたバスに乗り込み、プノンペンへと去って行かれた。
戦いすんで日が暮れて。
太田三佐は幽鬼のように憔悴し、一言私に呟くと、宿舎へと消えて行った。
「疲れた……」
p188
広報担当の皆様のご苦労には頭が下がります。言論、思想の自由を守るのも楽ではありません。いくら仕事とはいえ、これでは自衛官たちの駐屯地には、ピース・ボートの皆さんへの怨嗟の声があふれた…かというと、そうでもないようです。
相手をせねばらなかった幹部たちはともかく、久々に日本人女性を目にした一般隊員たちには意外にも喜びの声もあったとか。
私はいつもの屋台へ行き、隊員たちに今日の感想を聞いた。
「いや、ひさびさに綺麗な女性を見て、目の保養になりました」
「見るだけで手が出せなかったのは残念です」みんなはしゃいでいた。
p188
なんともまあ、お互い、平和なものです。自衛隊とピースボートの友好的なこと、かくの如しです。実に日本的、とでもいうべきでしょうか。
そんなわけで、今回の件にしたところで、今更マジメに批判するほどの行動とも団体とも思えないのでした。
以下、蛇足
また、本件について「こんな連中は守らんでいい。いっぺん海賊に襲われろ(大意)」とか云うのはいくら何でも不謹慎ではないかと思います。未成年が乗ってる船でもありますし。運行会社の判断を追認したピースボートの態度は確かに卑怯だけれど、穏当です。少なくとも思想や信念のために人が死んだり、殺されたりするよりよほどマシです。
たとえ間違っていたとしても、自分の思想信条を持つ自由。個人が安心して愚かでいられる社会。つまりは理念や政治活動も食う寝るの楽しみにしてしまえる平和。それもまた守るべきものの一つなのですから。
カンボディアPKO 編成完結式
あと、本当は笑えないのです、この一件は。
彼らの柔軟な態度を滑稽だと思うのは、鏡の中の自分を笑うようなもの。なぜなら見方によっては、日本自体がピースボートみたいなものなので…。それについてはまた機会があれば書きたいと思います。