北朝鮮の核実験実施とその狙い
北朝鮮が核実験を実施しました。
朝鮮中央通信は25日、北朝鮮が核実験を実施したと発表した。核実験は3年ぶり2回目。
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なお、爆発規模は長崎型原爆と同程度といわれています(ソース)。
それに続き、北朝鮮はミサイルの発射も行いました。
韓国国防省によれば、北朝鮮は25日午後0時8分、同5時、同5時3分に短距離ミサイルを発射した。1発目は咸鏡北道舞水端里(ムスダンリ)付近から射程130キロ程度の地対空ミサイルが発射された。2、3発目は地対艦ミサイルとみられる。
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6カ国協議参加諸国の反発
これに対し、アメリカ、日本、韓国らの諸国は次々に批判の声明を出しています。
オバマ米大統領は25日未明(日本時間同日午後)、北朝鮮による核実験を「国際法違反」とし、「すべての国への深刻な懸念だ」と非難する声明を発表した。「国際社会が行動を取る正当な理由になる」とも述べ、安保理を舞台として対抗措置を目指す考えを示した。
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特筆すべきことは、今回は中国も圧力路線に傾いていることです。北の核実験は中国の無力を示し、面子を潰す行為だからです。
中国外務省は25日、「北朝鮮が国際社会の反対を無視して再び核実験を行ったことに、断固として反対する」との声明を発表した。…胡錦濤指導部の怒りは強いとみられ、政府内には「重大な挑戦だ」(外交関係者)との受け止め方もある。今後は国連安保理の場で、北朝鮮との関係の軸足を「圧力」へ移していくとみられる。
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そのため安保理で制裁決議がなされても、中国は拒否権を発動しないだろう、という予想がなされています。
北朝鮮と同国最大の支援国である中国との関係は悪化するとみられる。国連安保理常任理事国である中国は、安保理による対北制裁強化に拒否権を発動しないと考えられ、北朝鮮への国際的な制裁は一段と強化されるとみられる。
北朝鮮が核実験実施、今後想定されるシナリオ | ワールド | Reuters
北朝鮮はなぜ核兵器を持とうとするのか
北朝鮮が核実験を繰り返すのは、自前の核抑止力もって自国の体制を安全にするためだと云われています。今回の核実験はその狙いに沿ったものです。
強硬姿勢をエスカレートさせることで、米国を交渉に引きずり出す狙いがある。同時に、ミサイルに搭載可能な「使える」核爆弾を本気で保有する決意を示している。
北朝鮮が地下核実験、06年以来2度目…「成功」と発表 : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
北朝鮮はアメリカを交渉に引きずり出し、成果を得ようとしています。この行動パターンは94年の米朝合意の際につくられました。
核→二カ国協議→ご褒美ゲットという成功パターン
北朝鮮は1993〜4年の朝鮮半島危機の際に、核開発をダシにしてアメリカと二国間協議を行いました。そこで北朝鮮は核開発を断念することと引き換えに、アメリカから軽水炉型原発と、重油50万キロリットルを毎年提供するという見返りを取り付けました。(もちろん、断念なんて嘘八百だったのですが)
この成功体験があるので「核開発による挑発→二国間協議→アメリカから妥協を引き出す」というパターンをそれ以降、何度も狙っています。
これまでこのパターンで重油や食料など数々の援助を引き出してきました。しかし北朝鮮が最終的に狙っているのは援助ではありません。
北朝鮮は自国を核保有国として認めさせたい
北の最終的な狙いは核保有国としての地位を手に入れることです。
北朝鮮はこれまで何度も何度も「援助をくれれば核開発を止める(凍結する、無期限に延期する)」と宣言してきました。しかし合意が成立してしばらくすると、また核開発を再開しています。結局のところ北朝鮮に核兵器を放棄するつもりは無いのです。
2006年12月の六カ国協議の時点で、北朝鮮は既に「現時点で核兵器問題を議論しようとするなら核軍縮会談を要求せざるを得ない」等、核保有国として扱われることを望む主張を繰り返していました。
北朝鮮は既に核兵器をもっていますが、それだけでは「核保有国」とはいえません。国際諸国から「北朝鮮は核兵器をもってもいい」と認められ、それにふさわしい扱いを受けることが望みなのです。
なぜそんなに核保有国になることにこだわるのでしょう。何かご利益があるのでしょうか。
核保有国になれば体制維持は磐石になる
北朝鮮が核保有国になれば、金正日(あるいはその後継者)の独裁体制は、少なくとも国外の脅威からは、安泰になります。北朝鮮が核弾頭を持ち、それを投射できるならば、アメリカ、韓国、中国がどれほど望んでも、北朝鮮を攻撃して体制を転換する(レジーム・チェンジを図る)ことは極めて難しくなります。
北朝鮮が持てる程度の核戦力では、アメリカやロシアに対抗して大国となることはできません。相互確証破壊(MAD)を担保できないからです。しかし、それでも相手国に耐え難いダメージを与えるには十分です。
北朝鮮が核兵器を先制使用する可能性はかなり低い*1ですが、もしアメリカや中国が北朝鮮を全面攻撃した場合、核兵器を使用するでしょう。この抑止力によって北は自国への全面攻撃を予防することができます。
しかしそれには一つ条件があります。核兵器だけでは足りないのです。
核兵器には弾道ミサイルが必須
たとえ核弾頭を製造しても、それを相手国まで運ぶ手段がなければ何にもなりません*2。核兵器の有力な投射手段*3は3つあります。弾道ミサイル、戦略爆撃機、潜水艦搭載型弾道ミサイルが「三本柱」と呼ばれています。このうち一番用意しやすいのが弾道ミサイルです。
弾道ミサイルは絶対的な攻撃手段です。射程距離に優れ、防御手段がほとんどないからです。大陸間弾道ミサイル(ICBM)なら射程距離が長いため、相手国の中枢を直接狙えます。北朝鮮は東京や北京まで攻め込んで占領する能力は持ちませんが、それでも弾道ミサイルさえあればそれらの都市を攻撃できてしまいます。このため弾道ミサイルは相手国の民衆を人質にとった脅迫手段として使えます。これを通常戦力に対する「非対称型の攻撃手段」と呼びます。それに加え弾道ミサイルは発射さえしてしまえば防ぐのが極めて難しい兵器です。ゆえにほぼ確実に届く投射手段です。
絶対的な攻撃能力を持つ弾道ミサイルに、絶対的な威力を持つ核兵器を積むことで、北朝鮮のような小国でも、相手国の国民数百万人を人質にして交渉することができるようになります。この効果の大きさは圧倒的です。まさに
核兵器の存在する世界では、最強国家の半分以下の経済力の国家でも、(核武装によって)大国の地位を保持することができる(ケネス・ウォルツ)
というべきです。北朝鮮が今回の核実験にあわせてミサイルを発射したのも「忘れるなよ、核兵器だけじゃなくてミサイルもちゃんとあるんだからな!*4」というアッピールのためでしょう。今回の発射は短距離ミサイルですが、弾道ミサイル打ち上げはつい先日「人工衛星」という名目で行っています。人工衛星と称するロケットの打ち上げと核実験は、意図的に連続して行われたものと想像できます。
国際諸国は北朝鮮が「核兵器+弾道ミサイル」というジョーカーを手に入れないよう、さまざまな努力をしてきましたが…。