防衛や軍事にご興味をお持ちの方向けに入門書をいくつかご紹介したいと思います。
ニュースなどで防衛に興味をもたれた方が、もう少し知りたいと思って書店に赴くと、当然ながら、良書もあれば悪書もあります。売れ筋ならいい本かといえばさにあらず。色々と問題点の多い本がわりとよく売れていることもあります。(参考)
ではいったい何を読めばいいのでしょうか?「最近、自衛隊とか防衛とかにちょっと興味を持ったんだけど、何読めばいいの?」という方のためにお勧めの入門書を三冊挙げてみます。
「安全保障とは何か―脱・幻想の危機管理論」江畑謙介
まずは信頼と実績の江畑氏。彼の著書は豊富なデータと綿密な考証にもとづいており、誤りが極めて少ないことで知られています。著者は工学博士でもあるためか、兵器の能力や性質についても正確です。そんなミクロな点だけではなく、国家安全保障レベルの大局的考察についても優れています。まさしく、日本最高の軍事アナリストといえるでしょう。
彼の著書は優れたものばかりですが、中でも入門書として一押しなのがこの「安全保障とは何か」です。以下に目次をご紹介しましょう。
安全保障とは何か
第一章 冷戦後の世界環境と安全保障
第二章 アジア・太平洋地域の安全保障環境
第三章 米国の世界戦略と日米安全保障条約
第四章 日本の役割と軍事的能力
第五章 近未来の安全保障と長期的安全保障
世界の状況を知った上で、それじゃ日本の安全保障はどうなの、ということが分かります。どちらか一方だけ解説した本にはない長所です。また、各章の中身はすべて多くの歴史的実例を紹介しながら、前提知識をもたなくても分かるように一々筋道だてて書かれています。
読みやすい新書サイズである点から言っても、入門書には最高でしょう。軍事の本ならば「とりあえず江畑謙介を読め」とはよく言われることですが、「江畑謙介を読むなら、とりあえず『安全保障とは何か』を読め」と申し上げておきます。
「日本の戦争力」 小川和久,坂本衛
北朝鮮のミサイルや、中国の原子力潜水艦のニュースを見ると「日本の防衛は大丈夫なの?」と気になるところです。
そんな素朴な疑問にフォーカスをあて、個々の疑問ごとに分かり易く解説したのがこの本です。全編がQ&Aの形式になっているので、読みやすい上、気になるポイントを突いて理解することができます。小川氏は江畑氏に比べ、防衛政策や兵器の運用といった、ミクロとマクロの中間部分の解説に強みがあります。このこともまた、素朴な疑問に答えるには好適です。
他方、江畑氏が「分析」に徹して自分の意見や提言をなさらないのに対し、小川氏は自説の主張に積極的な点も特徴です。そのため「事実」と「意見」の区別がややなおざりな場合もありますので、その部分を意識して読むべきではあります。
とはいえ、この本が入門的な解説書として非常に優れた本なのは間違いありません。最近、文庫化されたので買い易く、読みやすくなりました。
「戦争の常識」鍛冶俊樹
前掲の二書は「防衛」「安全保障」といったトピックで書かれた本でした。多くの人にとってはそれだけで関心を満たせるものと思いますが、なかには「軍隊」や「兵器」といった方向からも知りたい、という方もいらっしゃるでしょう。そういう方のための入門書としては、私が知る限り、「戦争の常識」が最適です。
以下の目次を見れば、それは一目瞭然です。
1:国防の常識
地政学とは何か? / 国防、安全保障2:軍隊の常識
軍隊とは何か?/ 軍隊と法 / 軍事と政治3:兵隊の常識
軍政と軍令 / 軍隊と階級 / 軍隊と社会4:陸軍の常識
歩兵が基本 / 戦車とは何か?5:海軍の常識
軍艦とは何か? / 艦隊決戦の行方 /通称破壊戦 / 上陸作戦6:空軍の常識
空軍とは何か? / 戦闘機とは? / その他の軍用機 / 空軍の編成7:現代戦の常識
弾道ミサイル / 核戦争の可能性 / 宇宙戦争 / 情報戦争
このように主だったトピックをみな概説しています。これを一冊おさえておけば、ずいぶん手広く詳しくなれるといっても過言ではないでしょう。
以上、全て読みやすい文庫・新書から、お勧めの入門書三冊を挙げてみました。
ほか、良い本がありましたら教えて頂けるととても嬉しいです。
参考
furukatsuさんからトラックバックを頂きました。
革命的非モテ同盟跡地
皆様からのご意見まとめ(6/22)
furukatsuさん以外からも「この本がいいよ!」というご意見をたくさん頂いたので、ジャンルごとにまとめてみます。
体系的な教科書を読んできちんと学ぶ
「安全保障学入門」
「軍事学入門」
こちら2冊は優れた教科書です。読みきるにはちょっと気合が入りますが、興味本位という以上に「ちゃんと勉強したい」と思う人には外せないチョイスですね。
兵站(ロジスティクス)を学ぶ
江畑謙介「軍事とロジスティック」
マーチン・ファン・クレフェルト「補給戦」
兵站の理解は極めて重要です。にも関わらず等閑にされがち。そこでまずは兵站の大事さを学ぼうぜという趣旨はとても適切ですね。上記二冊に加え、もし手に入るなら「海上護衛戦」「山・動く」も加えたいところです。
カラシニコフ
ドラさんからお勧めを頂きました。「カラシニコフ」
朝日新聞の連載ということで、えらい先入観があったのですがこれは防衛と国家の役割を知る上での良著と言えます。 カラシニコフを軸にしてアフリカの惨状を描き、その混乱の根本が治安と教育の崩壊にあることを明瞭に描き出します。カラシニコフという銃そのものから、国家を国家たらしめているものは何か? という問題にまで迫る本著は入手も容易で安価、そして読み易いという、まさに防衛に興味を持った方にお勧めできる本です。
防衛に興味をもった方におすすめしたい3冊の名著 - 【移転済】リアリズムと防衛を学ぶ
確かに! これは盲点でした。この本に関してはスゴ本さんの書評でも採り上げられておりますね。
戦術を学ぶ
これらは戦術についての良書です。いかに部隊を動かし、どんなドクトリンによって戦うか、という部分を知りたい方には格好の本ですね。よりミクロな部分が分かる本を付け加えるならば「コンバットバイブル」、有名な戦いの戦術について知りたければ「名将達の決定的戦術」がいいでしょう。
古典から入る
ヴォルフ少佐からは
敢えて孫子、クラウゼヴィッツ、リデルハートなどの古典はどうでしょうか(笑)
防衛に興味をもった方におすすめしたい3冊の名著 - 【移転済】リアリズムと防衛を学ぶ
とのご意見を頂きました。さすがヤン提督。せめて抄訳から入るとして、戦略論体系シリーズか、あるいは名著で学ぶ戦争論(日経ビジネス人文庫)辺りでしょうか。それにしても英才教育ですね…!