「自衛隊は戦前の軍隊とは違う」と自衛隊の誘致をアピール
与那国島の町長選挙で、現職の外間氏が決起集会を行いました。そこで彼の政策の一つとして、自衛隊の誘致がアピールされました。与那国町の議会は、昨年9月に自衛隊誘致の要請決議を可決し、防衛大臣に対して誘致の要望を行っています。
離島では雇用をもとめて若者が流出しがちです。自衛隊を誘致すれば、自衛隊員が移住してきて、消費者になってくれます。与那国島の人口は約1700人です。もし50人や100人の若い自衛官たちが移住してくれば島にとってのインパクトは非常に大きいでしょう。駐屯地に商品やサービスを売る商売も生まれるはずです。離島にとって自衛隊誘致は有望な経済政策なのでしょう。
また、与那国のような国境付近の島は外国の脅威を間近にしています。与那国は台湾に近いので、中国と台湾の間で紛争が起こった場合、それに巻き込まれる恐れもあります。90年代の台湾海峡危機の際にこの付近の漁師たちは出漁できず、もし何かあったらと不安を感じていたと聞きます。
自衛隊誘致については、人口増に向けた方策と関連付けながら、「自衛隊は一つの産業ということを頭に入れてほしい」と述べた。
「自衛隊は戦前の軍隊とは違う」現職・外間後援会が総決起大会 与那国町長選 | 八重山毎日新聞社
…選対本部長の前西原武三氏(町議)は「日本最西端の与那国を自衛隊が守るのがなぜ悪いのか」と訴えた。
なぜ離島に部隊を配備すべきか? フォークランドと南沙諸島
島の都合はそれとして、日本国としてはなぜ離島に部隊を配備すべきなのでしょうか?
これについては北大路機関様がうまくまとめてくださっています。
フォークランド紛争の場合 離島配備が上陸する敵のハードルを上げた
イギリス領のフォークランドにアルゼンチン軍が上陸し、島を奪いました。ここから始まった戦いがフォークランド紛争です。
少数でも警備の人員を配置する必要性。
たとえば、1982年のフォークランド紛争では、一個中隊規模の海兵隊がフォークランドに駐留しており、サウスジョージア島にも一個分隊の海兵隊を駐屯させていた。かなり少ない兵力ではあったものの、侵攻したアルゼンチン軍は、フォークランド島には旅団規模の、サウスジョージア島には大隊規模の部隊を上陸させる必要を強いた。
北大路機関: 南西諸島 沖縄県与那国島に陸上自衛隊分屯地新設へ検討
島の駐留部隊は敗北を喫しましたが、しかし上陸を困難にしたことは確かです。また、そこに英国軍が居て、アルゼンチン軍と戦ったという事実は、イギリスが奪還作戦に乗り出す上で政治的に役立ったのではないでしょうか。
ミスチーフ環礁の場合 やすやすを上陸を許し、しかもそれに気づかなかった
これと対称的なのが、フィリピンが領有権を主張していたミスチーフ環礁のケースです。同じく領有権を主張した中国が軍を上陸させ、勝手に施設を作って実効支配してしまいました。
他方で、まったく国境警備の部隊が駐屯していなかった場合、例えば、フィリピンの南沙諸島ミスチーフ環礁では、こちらは無人の環礁で人口1800名の与那国島との単純比較は妥当ではないものの、中国軍が占領し施設を構築しているという情報を、外国商船から通報されるまで気づかない、という事例があった。
部隊が駐屯しているのか、いないのか、という問題は、ここまで異なる外交的結果を招く端的な事例だ。
北大路機関: 南西諸島 沖縄県与那国島に陸上自衛隊分屯地新設へ検討
与那国に配備される(予定の)陸上自衛隊はどんな部隊か?
与那国島に配備されるのは銃をもって戦う普通科(歩兵)部隊ではありません。いまのところ、レーダー部隊の予定です。これについては数多さんが解説されています。
部隊としては…数十人から百人弱、沿岸監視を任務とする部隊となるようです。
…所謂レーダーサイトではなく、おそらく沿岸監視レーダーを配備することを言っているのでしょう。…あるいは、常時監視を行うつもりなら、固定の沿岸監視レーダーを設置するかもしれません。…常時監視をするのでなければ、部隊配置をする意義は、軍事的には増援受け入れ部隊としての意味合いが強いと言えます。
そして、それ以上に先島(と尖閣)にかける日本の政治的意思の表明という性格が強いでしょう。
与那国に陸自部隊|数多久遠のブログ シミュレーション小説と防衛雑感
台湾有事で日本の離島は通り道にされる?
過去の歴史をみると、何も悪いことはしてないのに、「通り道」として戦争に巻き込まれた国がいくつもあります。有名なのがオランダ・ベルギーなどの低地諸国です。ドイツがフランスに攻め込む場合に何度も巻き込まれています。
ドイツからみると、低地諸国はフランスの横にあります。正面からフランスに攻め込むと防御が堅いので、ドイツ軍はまず低地諸国に攻め込んで占領し、フランスの側面に回りこみました。通り道にするために侵略・占領された低地諸国にとってはたまったものではありません。
中国、台湾、そして与那国島ら先島諸島の位置関係をみてみましょう。中国からみれば、先島諸島は台湾島の横にあります。中国が台湾に武力侵攻する場合、先島諸島が「通り道」にされる可能性がある、とのことです。この可能性については以前に高井三郎氏が軍事研究で論じておられました。
ここでは詳しくは述べませんが、与那国島などの先島諸島は、外国が日本に野心を向けた場合だけではなく、外国同士の戦争にも巻き込まれて戦場化されてしまう恐れも、可能性としてはある、ということです。
このような面から考えて用心に越したことはないですし、地元も要望しているわけですから、先島諸島防衛の一手として与那国配備が進んでほしいものです。
与那国は南西諸島配備のモデルケースに
(09/07/29追記)
ちょっと補足しておきます。
政治的・経済的にはともかく、軍事的には与那国島に”だけ”陸自を置いても不十分、とのことです。私は戦術的なことは分からないのですが、前述の軍事研究における高井氏(もと陸自教官)の記事でもそのように書かれておりましたし、数多さんもそのように述べてらっしゃいます。
純粋に軍事的には、沖縄本島、久米島以西には、宮古島のレーダーサイトと与那国の沿岸監視部隊ということになり、監視網という点では良いものの、ちょっとアンバランス過ぎるような気がします。今後はやはり宮古島に普通科部隊、下地島に空自飛行隊が欲しいところです。
与那国に陸自部隊|数多久遠のブログ シミュレーション小説と防衛雑感
というわけで、沖縄本島以南への部隊配備は今後とも必要になりそうです。今回の件はその良き端緒となってくれればよいですね。地元も喜び、防衛の必要も満たせる、というのが理想的な形ですから。