リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

世界の軍隊がつくったリクルートCMを比較してみる

日本では企業の採用活動のことを「リクルート活動」といいますね。この”リクルート”という言葉、その語源は軍隊にあります。

リクルートは本来、「新兵募集」という意味で使われた言葉だそうです。現在でも英語の recruit (リクルート)は新兵、つまり「軍隊に入りたての兵士」という意味も持っています。

いま世界の主な軍隊は”志願兵制”をとっています。採用活動に応募してきた若者に試験や面接を行ない、合格者を採用する形式です。そこで軍隊も普通の企業と同じように採用応募者を募っています。そのためにテレビCMを作り、放映している軍隊は少なくありません。その中にはかなりぶっ飛んだ発想とクオリティで作られているCMもあります。まるでハリウッド映画です。

Youtubeにあがっているものをいくつか紹介します。この記事の上から順に

  1. 台湾
  2. アメリカの海兵隊
  3. ウクライナ
  4. オーストラリア
  5. ロシア
  6. 日本国 自衛隊(陸海空それぞれ)

のCMが見られます。

宇宙人が攻めてきたら台湾軍に任せろ!

これは台湾(中華民国)軍のリクルートCMです。別に日本のお台場ガンダムに対抗したのではなくて、やっぱりハリウッド映画「トランスフォーマー」に影響されたのだと思います。

CMの意図としては、とりあえずインパクトを重視し、とカッコいいイメージを若者に送りたい、というところでしょうか。これを観て「人型ロボットに乗りたくて応募しました!」という新兵はいない…といいのですが。

海兵隊は何と戦っているんだ?

続いてアメリカ合衆国海兵隊です。海兵隊といえばハートマン軍曹(映画「フルメタルジャケット」)で有名ですね。

台湾軍がSFならこちらはファンタジー物ですね。意図としては「個人の強さを鍛えられる」をアピールし、向上心旺盛な若者に訴えたい、というところでしょうか。確かに軟弱な人に来られてはハートマン軍曹としても困るでしょう。そうかと思えば、毛色の変わったアピールをしている軍もあるようです。

それでいいのかウクライナ


ウクライナの防衛力について深刻な疑念を持たざるをえない。反響はあるかもしれないが、アピールするのは本当にそこでいいのか。あと、この軍はあんまり予算がないんだろうと思います。

オーストラリアは堅実に攻める


こちらはオーストラリア軍です。豪州軍はイラク派遣や演習場の貸し借りなどで自衛隊と交流が深まりつつあります。こちらは堅実なつくりで「軍隊に入って自分を変えよう」とアピールしています。

ストーリー仕立てのロシア軍


こちらは他と違い、会話を取り入れたCMです。アメリカ・台湾のような派手さはありませんが、なかなか好感が持てるCMですね。ロシア軍らしからぬ間接アプローチ戦略で来たと申せましょう。

陸上自衛隊は災害派遣をアピール


陸自は実際に活動している動画にインタビューをあわせたもの。ちなみに自衛隊を受験される方は志望動機は、「災害派遣」と「PKO」が双璧だとききます。自衛隊のメインの活動は防衛出動ですが、国民に理解を得るにはやはり災害派遣を前に出すのが分かり易いのでしょうね。

低予算でシンプルな作りながら、悪くはないのじゃないでしょうか。陸自の気風は「用意周到 動脈硬化」と冗談まじりにいわれますが、CMも陸自っぽいマジメで質実剛健な作りですね。

航空自衛隊は女性を主人公に


「猪突猛進 支離滅裂」と呼ばれる空自ですが、このCMでは女性自衛官を主人公にしています。自衛隊は男社会ですが、ここ数十年の間にゆっくりと女性が増えつつあります。確かいまでは5%ほどが女性のはずです。以前が1%だったことを考えれば、比較的での話だとしても、ずいぶん増えたといえるでしょう。

このCMのように女性のパイロットも実在します。まだ戦闘機パイロットは男性のみのようですが、哨戒機や輸送機では女性が操縦桿をにぎることも増えているようです。以前は男性しか乗れなかった護衛艦も、新鋭の「ひゅうが」クラスには女性自衛官が勤務しています。これからも女性自衛官の活躍の場はさらに広がっていくのでしょうね。

また女性自衛官は男性よりもはるかに高い倍率をくぐりぬけてきた人たちです。確か女性幹部の倍率は100倍近かったはずです。ですから女性自衛官は一般に男性より士気が高く、仕事ができる人が多い、という噂を耳にします。

海上自衛隊は…

海自は、その気質を「伝統墨守 唯我独尊」と揶揄されます。旧海軍からの伝統を守っているんだというプライドが高いこと、陸空とあまり協同したがらないこと等を示しています。

そんな海自ですが、CMに関しては柔軟な発想を持っているようです。*1

現代におけるリクルート活動

大昔の軍隊では「リクルート」といえば徴兵制度、そのさらに昔ならば英国海軍の悪名高い水夫徴募のように、半ば以上ムリヤリ集める、という部分がありました。

ところが兵隊に求められる技術が高度化した現代では、ムリヤリ集めてきたやる気のない兵隊ではあまり役に立ちません。そこでやる気がある優秀な人材を獲得するため、各国軍はそれぞれに知恵を絞り、予算を工面して工夫を重ねています。

宣伝だけではありません。軍隊が若者にとって魅力的な職場であるように、また軍に入ることがその後のキャリア形成につながり易くなるように。待遇や制度にも色々な工夫が行われています。それらも興味深い話題なので、またいつか取り上げてみたいところです。

ところで以上のCMをご覧になって、どれが一番効果がありそうだと思われますか?

*1:ちなみにもっと普通のCMもあります。http://www.youtube.com/watch?v=Eji0g3AM9do&feature=player_embedded