航空自衛隊の次期戦闘機にF-35ライトニング2が選ばれたという報道がありました。
防衛省は航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)について、次世代戦闘機F35を採用する方向で調整に入った。12月から選定作業を本格化させ、2011年度の概算要求にF35の契約金など関連経費を盛り込みたい考えだ。複数の防衛省・自衛隊関係者が22日、明らかにした。
防衛省、次期戦闘機F35採用へ 約40機の導入想定 - 47NEWS(よんななニュース)
しかし昨日の記者会見で、北澤防衛大臣はこの報道を全面否定しています。
Q:F−Xの話なのですけれども、一部報道でF−35の方向だということなのですけれども、現在の検討状況というのはどうなのでしょうか。
A:あの報道は全く根拠がありません。従来、我々が内閣を引き受ける前に、色々と省内で検討したりしたことがあったことのパッチワークのような話が出ただけで、あれについてコメントする気もありませんし、防衛省の方針があそこに表れているということは全くありません。
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上記のようにF35に決定という報道はきっぱりと否定されています。もっともF35を検討する動きがあることは事実ですし、今後あらためてF35に決まる可能性はあるでしょう。とはいえ、現時点では共同通信の報道は誤報とみなしていいのではないでしょうか。
次期戦闘機には防衛技術基盤が関係する?
私は兵器のことはまるで分からないので、次期戦闘機選びについて性能面から云々論じることはできません。ただここ半年くらいの防衛省の動きを見る限り、壊滅しつつある防衛産業をどうする、という問題意識が台頭している模様です。よって次期戦闘機選定にも、防衛産業の壊滅を防ぎ、技術基盤を守るという観点が強く影響可能性があるのではないでしょうか。
ここ10年近くに及んだ防衛費の削減、さらにはミサイル防衛導入によって、通常の装備調達費は削りに削られてきました。そのため自衛隊に兵器を収めている防衛産業は衰退し、技術基盤を失いつつあります。
防衛費が抑制され自衛隊装備品の発注が減るなかで、防衛産業が苦境にあえいでいる。戦闘機関連では…下請け20社が防衛部門から撤退中か既に撤退。戦車など陸上戦闘車関連では13社が倒産、35社が廃業や撤退した…。「防衛生産・技術基盤が崩壊しかねない」との危機感が生産現場で高まっている。
朝日新聞デジタル:どんなコンテンツをお探しですか?
戦闘機関連では下請け20社が既に撤退した上、まだ踏ん張っている企業も技術喪失の危険にさらされている模様です。いまは支援戦闘機F2を作っているのですが、石破防衛庁長官(当時)の決断で生産数が減らされたため、平成23年9月末には生産が終了します。
すると日本における戦闘機の組み立てラインは完全に停止します。生産が止まれば、企業はそこの技術者を他に転属させざるを得ず、後継者が育つこともなく、技術を無くしていってしまいます。技術基盤の喪失は、自衛隊にも悪い影響を与えます。
防衛技術基盤の喪失は自衛隊にダメージを与える
家庭用電化製品が故障したり不調のとき、私たちは製造メーカーに電話してサポートを受けます。必要があればメーカーに送って修理してもらったり、新品に取り替えてもらったりします。
自衛隊の兵器も同様です。日常のメンテナンスは部隊でしていますが、大きな不具合が起きたときはメーカーのサポートを得ます。それによって不具合を早期に解決し、兵器の稼働率を高く保っています。何かあったときにメーカーと工場が国内にあり、サポートを受けられるというのはありがたいことなのです。
ですから防衛産業が衰退し、技術基盤が失われると、稼働率の低下につながります。不具合や故障を起こした戦闘機が、現場に復帰するまで時間がかかるようになってしまいます。稼動率が低下すれば、常に動ける戦闘機の数が減り、抑止力が低下します。下がった稼働率で従来と同じ抑止力を保つには、より多くの戦闘機が必要になります。
また、時代遅れになった兵器を改良する場合や、安全性の維持の観点からも、防衛技術基盤が国内にあることは恩恵があるそうです。
戦闘機の技術基盤について懇談会を開催
防衛省は今年の6月から懇談会を開催し、F2の生産終了による悪影響を研究しています。この動きは次期戦闘機の選定にあたって、技術基盤の維持という観点を反映させようとするものでしょう。
この観点からみればF35はあまり好ましくありません。国内で製造する許可をとるのが難しいと考えられているからです。逆に技術基盤のために好ましいのはユーロファイターや、F15FX等です。
技術基盤の維持以外にも、次期戦闘機選びには色々な観点があります。ですからこの観点でだけ考えればよいというわけじゃありませんし、自衛隊にもそんなつもりはないでしょう。
ですが現にこのような懇談会が今年に入ってから連続開催されている以上は、技術基盤維持の観点が何らかの形で選定に影響していくと考えるのが自然でしょう。