リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

武器輸出三原則は武器の輸出を認めている

北澤大臣が武器輸出三原則の見直しを言い出し、議論を呼んでいます。

北沢俊美防衛相は12日、都内で開いた防衛関連産業の新年会で、武器輸出三原則について「そろそろ基本的な考え方を見直すこともあってしかるべきだ」と述べ、見直しに前向きな考えを示した。

経済、株価、ビジネス、政治のニュース:日経電子版

これに対して福島大臣と鳩山首相が批判しています。福島大臣は「日本製の武器が世界中の人々を殺してこなかったのは、世界に誇っていいことだ。…強く抗議する*1」とし、鳩山首相も「日本は平和国家を宣言しており、三原則は堅持すべきだ*2」と述べました。

このように三原則をどうするのかが議論になっています。今回はこの辺りを軽く整理してみます。

武器輸出三原則は、武器の輸出を認めている

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武器輸出三原則は一般に、日本の武器輸出を禁止しているものと思われています。ですが武器輸出三原則は日本の武器輸出を基本的に認めています。実際の文言を見れば、それは一目瞭然です。

武器輸出三原則とは、次の三つの場合には武器輸出を認めないという政策をいう。

(1)共産圏諸国向けの場合
(2)国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合
(3)国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合

[佐藤総理(当時)が衆院決算委(1967.4.21)における答弁で表明]

http://www.mofa.go.jp/MOFAJ/gaiko/arms/mine/sanngen.html

 この武器輸出三原則に従えば、共産主義国(例えば中国)でもなく、国連決議で武器輸出が禁止されている国(北朝鮮など)でもなく、国際紛争の当事国(北朝鮮、韓国ら)でもない国に対してならば、輸出してもOK、ということです。そして世界のほとんどの国はこの3つのどれにも当てはまらないので、日本が輸出OKな国の方が世界には多いといえましょう。

 このように武器輸出三原則は多少の制限を加えているものの、基本的には武器の輸出を認めています。ではなぜ日本はこれまで長らく武器輸出を自粛してきたのでしょうか。

輸出を禁止しているのは「政府統一見解」

日本の防衛法制
 日本が武器を輸出しない根拠となっているのは「政府統一見解」です。1976年に出されました。

武器輸出に関する政府統一見解(1976.2.27)  

(1)三原則対象地域については「武器」の輸出を認めない。
(2)三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。
(3)武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする。

http://www.mofa.go.jp/MOFAJ/gaiko/arms/mine/sanngen.html

 武器輸出三原則に加えて、この政府見解をプラスしたものを「武器輸出三原則”等”」と総称します*3。ですから「三原則を堅持すべき」という風に言うのは、厳密には間違いです。正確を期するなら「武器輸出三原則”等”」と言うべきです。

 この政府見解が出されて以降、日本企業の武器輸出は経済産業大臣の許可がないとできない、ということになっています。そして普通は許可がおりません。ただし、武器を売っていないからといって、日本の産業がまったく戦争に無縁でいるわけではありません。

軍事利用されたプレステ3

 武器に関係のない民生品ならば三原則等には触れません。ところが民生品と軍用品の境目は極めてあいまいです。実際、日本が輸出した民生用の製品が軍事利用された例は多数あります。ソニー、パナソニック、トヨタらの製品です。例えば昨年、こういう報道がありました。

(アメリカ)空軍は2200台のプレステ3を注文している。といっても、これは「コール・オブ・デューティー4」で遊ぶためではない

 なぜ軍隊がプレステ3を買ったかといえば、軍の研究所で使うためです。プレイステーション3を300台ほど合体させて1つのコンピュータのようにしたそうです。(下記写真)

 プレステ3は処理性能がいいし、大量生産されているゲーム機だから、ふつうに高性能コンピュータを作るよりも安い値段で手に入るということでしょう。他にもアメリカ軍ではパナソニック製の頑丈なノートパソコン「タフブック」が大量に使われています。

参考国際情勢評議会 プレステが軍事利用される?

戦場で活躍したトヨタ車


 コンピュータ関係ばかりではありません。日本の輸出製品といえば、何といっても車です。チャド内戦ではトヨタ製のトラックがたくさん使われ、かなりの戦果をあげました。上の写真は兵士を満載している様子です。

 よりセンセーショナルだったのは、トヨタのトラックが改造され、荷台に対戦車ミサイルを搭載したことです。この対戦車トラック部隊(トヨタ製)が戦場を駆け巡り、時には敵軍の戦車も撃破して話題になりました。何の装甲もないトラックを前線で使うという常識外の戦法です。人命を軽視している途上国ならではの戦い方といえるでしょう。

 ちなみにこういう例外的な戦法を除いても、トラックは戦争において極めて重要です。戦争は大量の物資を消費するので、大量輸送なくして成り立たないからです。どれほど優秀な軍隊でも、大量のトラックが物資を運んできてくれなければ、遠方で活動することはできません。

 それはともかく、チャド内戦ではトヨタ車の軍事利用がとても印象的だったので、話題になり、「TOYOTA WAR(トヨタ戦争)」とまで呼ばれました。このような事例を考えますと、福島大臣の仰るように「日本は武器を輸出してないんだ」と誇るのはいささかナイーブに過ぎるようにも思われます。

これまでに日本が行った武器輸出

 また、三原則等の例外として認められて、武器が輸出されたケースもあります。例えば2006年に日本からインドネシアへ、巡視船の輸出が行われました。ODAを使った無償供与です。巡視船は海上保安庁が使っている船です。これは「軍用船舶」に該当し 、武器輸出三原則等に抵触します。それなのにどういう理屈で輸出が認められたのでしょうか?

 それは日本・インドネシア間で「海賊対策にしか使いません」という合意を結んだことです。

インドネシア側との間で…巡視船艇が…テロ・海賊行為等の取締りや防止のみに使用され、それ以外の目的で使用されないことや同船艇を日本の事前の許可なしに第三者に移転されないことを確保する必要がありました。…これらを日本とインドネシア間の合意に含めることにより、武器輸出三原則等の例外としました。

4.インドネシアへの巡視船艇供与

 確かに海賊対策にのみ使うのであれば、別に世界の平和を脅かすことにはなりません。海洋の治安が良くなり、民間船が安心して通れるようになれば、むしろ平和のために良いことだといえるでしょう。そこで武器輸出三原則等の例外扱いとして認められたのです。

 この考え方を延長するならば、他にも救難のための飛行艇を外国の海軍に売る、というようなことが考えられるでしょう。ですがもちろん、武器輸出が平和を脅かす場合があるのも事実です。

平和を脅かす武器輸出


 北朝鮮や中国が行っている見境のない武器輸出は、世界の平和を損なっているといえるでしょう。北朝鮮は弾道ミサイルや核兵器の技術を取引したり、さらにはテロ組織にまで兵器を売ったりしています。

今月中旬、タイの首都バンコクに着いた貨物機から北朝鮮製とみられる武器が見つかった事件は、国際的な監視の目をかいくぐり、中東への武器輸出を試みようとする北朝鮮の活動の一端を明らかにした。……船には、パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム原理主義組織、ハマスなどへのロケット砲用の部品が積まれていたという。

http://sankei.jp.msn.com/world/mideast/091225/mds0912252127002-n1.htm

 中国についても、明らかにろくでもない国にまで兵器を売っているので問題視されています。例えばダルフールの虐殺で大いに批判をあびているスーダンです。

…中国製の多連装ロケットシステム「WS2」が中国からスーダンに輸出されたと伝えた。…… 欧米の人権団体などは、人道危機が続くスーダンへの武器売却はスーダン政府による人権侵害行為の助長につながるとして中国を批判している。(共同)

スーダン陸軍がアフリカ最強に? 中国がロケット砲輸出か - navi-area26-10の国際ニュース斜め読み

中国は兵器の売り込みに熱心で、その相手先はスーダン以外にもあまりまともでない国が多いようです。

相手先は全て、アジアやアフリカの貧困国やパキスタン、イランのような国際社会にあまり歓迎されていない国だ。……その目的は、政治的なものか、あるいは原油や鉱物資源が豊かな国を丸めこむために他ならない。

<武器輸出>中国が世界第5位に、相手先の多くは貧困国―米シ...|レコードチャイナ

また、以前に内戦や大虐殺のあったカンボジアへも、中国製の安い銃が大量に流れ込んでいたといいます。

 このように、見境なく、危険な国や組織にまで武器を売るのは、地域を不安定にし、紛争を助長し、人命を損なう行為です。鳩山首相や福島大臣の問題意識でいえば、最も批判されるべきはこの類の、見境のない武器輸出をしている国々でしょう。(その割りにお二人が中朝の武器輸出を批判したというのは聞かない話ですけれども)

 とまれ、もし日本もこのような見境なしの武器輸出をするとすれば、大いに世界の平和を損ない、国際的な評判を落としてしまうでしょう。

平和的な国は武器を輸出しない?


 「武器輸出をしなければそれだけで平和的である」とは必ずしも言い切れません。テクニカルライターの井上氏は、こう論じていらっしゃいます。

本当に "平和的" な国家が兵器輸出と無縁かというと、どうもそういうわけでもない。たとえば、「永世中立国」という看板のせいで平和団体などから妙に高く評価されていることも多い、スウェーデンやスイス。実は、この両国は兵器輸出の面では大物だ。…だが、「平和国家が平和国家に兵器を輸出するなんて怪しからん」といって両国の大使館にデモ行進した話は、トンと聞いたことがない。いい加減なものだ。

Kojii.net - Opinion : 武器輸出三原則の見直しに関する疑問 (後編) (2004/8/2)

こんな調子だから、一般的な「平和的国家」のイメージと「兵器輸出国家」としての実体は、あまりシンクロしていない。

……こうなると、兵器輸出で文句をつけるかどうかの分かれ目は、兵器輸出を行っているかどうかということよりも、輸出に際してどの程度の節操があるか、という点だと思う。

Kojii.net - Opinion : 武器輸出三原則の見直しに関する疑問 (後編) (2004/8/2)

 確かに見境のない武器輸出は明らかに平和を損なっており、批判さるべきでしょう。とはいえ平和的な多くの国々が行っているような、節度のある輸出までも同じように批判されるべきかといえば、そうとは限らないでしょう。

鳩山政権でも巡視船の供与は行われる予定

 実際、鳩山政権においても、イエメンへの巡視船供与が実行される予定です。

ソマリア沖の海賊対策で、政府は対岸のイエメンに30メートル級の巡視船1隻(約10億円)を供与する方向で検討に入った。……ソマリア沖では最近、海賊事件が急増し……周辺国の沿岸警備隊の取り締まり能力が不十分なため、装備の拡充や人材育成が課題となっている。

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20100105-OYT1T00084.htm

 これに前向きであるということは、鳩山政権自身、モノと用途、そして輸出先の国をきちんと吟味するならば、武器輸出は世界の平和のために資することもある、と考えているということでしょう。

 また、鳩山首相は「日本は平和国家を宣言しており」と述べていますが、その平和国家日本は大口の兵器輸入国です。アメリカ、イタリア、ドイツなどの国々から兵器を買っています。日本が平和国家だとすれば、日本に兵器を輸出した国々は武器輸出で世界の平和を脅かしたとは、ちょっと言いがたいでしょう。

色々なケースについて、メリット・デメリットを考えることが必要

アルカイダonトヨタの図。詳細は未確認。

 以上のように考えますと、武器輸出の問題というのはなかなかに難しい話です。

 平和的だけど武器輸出を盛んにやっている国々や、武器をたくさん輸入しつつ平和国家を呼号している日本のことを考えると「武器輸出しなければ即ち平和国家だ」とまとめてしまうのはいささか乱暴なように思われます。

 かといって中国や北朝鮮のような見境のない武器輸出は、責任あるまともな国がやっていいことではありません。他方で、海賊を退治して海洋の安全を守るために巡視船を供与するのがOKならば、他にも平和構築のために輸出できるモノや国はあるでしょう。

 さらには北澤大臣が指摘したように、自衛隊の装備調達の観点からみても、節度のある武器輸出まで一緒くたに禁じるのはデメリットが大きいです(これについては次回ふれますが)。

 武器輸出三原則等については今後とも議論が重ねられることになるでしょう。そこでは乱暴にまとめて議論するのではなくて、色々なケースを想定した上で、それぞれについてメリットとデメリットを比較して考えるべきでしょう。

 そこで次回は「武器輸出のメリットとデメリット」についてまとめる予定です。

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