防衛についての議論では「抑止」という言葉が数多くでてきます。「抑止力を保持するために」とか。ある国が戦争が戦争を起こそうとすることを、主に軍事力によって押さえつけ、防ぐのが「抑止」です。抑止とは何かについてその前提、分類などを何回かに分けてざっくり書いていきたいと思います。
戦争が起こるのはどんな時か?
「抑止」の前に、戦争の発生について考えておきましょう。国家はどんな時に戦争を行うのでしょうか。
戦争とはある国が、別の国に何らかの意図を強制しようとするときに起こります。戦争によって何らかの意図を達成しようとするのです。しかし戦争には高いコストがかかります。
戦争をやることの損益は、戦争で得たものと、かかったコストの差であらわせます。これを式にすると、こんな風になります。
U(効果)=V(満足度)−C(費用)=(V1+V2+...Vn)−(C1+C2+...Cn)*1
そして戦争の効果(U)は、満足度と費用のどちらが大きいかで決まります。商売の黒字、赤字と一緒ですね。
ただし商売と違うのは、金銭だけでは計算できないという点です。経済的な損益だけで考えれば、戦争は常に赤字の事業です。それでも戦争が行われるのは、戦争で得られる満足の中に、威信の獲得、恐怖からの解放、国民の不満発散といった、お金で買えない価値があるからです。
ともかく、戦争に必要なコスト(C)よりも、戦争をやって得るもの(V)の方が大きい、または戦争をしなかった場合に失うものが大きい、と考えたとき、その戦争の効果(U)はプラスだと判断され、国家は戦争にうってでると考えられます。
抑止とは「戦争を赤字にする」こと
ということは「この戦争をやれば、コストの方が大きく、効果はマイナスになってしまう」と判断した場合、国家は戦争にうってでることに消極的になるはずです。
従って、戦争を予防する方法は2つです。得られる満足(V)を少なくするか、失われるコスト(C)を増大させるかです。一定の軍事力を保持することによってこれを目指すのが、抑止のいとなみです。軍事力を持ち、防衛を固めることによって、相手が達成できる利益を減らし、かかるコスト(犠牲者、戦費、時間など)を増大させます。
それによって、期待できる戦争の効果がマイナスになり「やるだけ損だ。やめとこう」と相手に判断させれば、抑止が成功すると期待できます。これが抑止の最も基本的な考え方です。
V < C → U < 0 ≒ 抑止の成立
今日はここまでとして、次の機会には抑止の種類、危険性、前提などについて触れたいと思います。
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お勧め文献
『安全保障』と言うものを理解できる
*1:K. knorr, On the Use of Military Power in the Nuclear Age(New Jersey, Princeton University Press,1966)pp9.