リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

佐藤大輔作「地球連邦の興亡」1巻が15年9月19日に文庫化!

ナンゴー、貴様とは色々あったが、もうどうでもいい。この写真を見てくれ。

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2015年9月期文庫 新刊発売情報 | ブックサービスの公式サイト)ということで、信じがたいことですが、地球連邦の興亡が文庫化されます。私のタイムラインに出てくる人は全員買いそうですが、他に誰が買うんです? こんなマイナーな作品。

これで全然売れなくて、万が一にも文庫化が途中で中止、なんていう悲劇になってはいけないので、ここで宣伝しておきます。

舞台背景

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「地球連邦の興亡」は、遠い未来を舞台にしたSF作品です。

他の星系にゼロ時間(らしい)で移動できる「ハイ・ゲート」の発見により、人類は宇宙に進出。多くの星に植民しました。

彼らを守るのは、人類のために戦う宇宙軍(スターミィ)。もちろん宇宙戦艦だってあります。人類を統べる地球連邦政府は民主主義政体であり、ただひたすら人類の生存のために奉仕する清廉と能率の権化のような組織。

このような体制のもと、人類はその絶滅をかけて、異星人との果てしない戦争「第一次オリオン大戦」を繰り広げていたのです…。

この物語の前夜までは。

戦争は去り、平和と不景気がやってきた

人類の運命をかけた宇宙戦争が終わり、ついに平和が訪れました。めでたし、めでたし、では終わりません。人は食べていかねばならないからです。

戦時中にはありあまるほどあった軍需は消滅。その一方、人類を守った英雄たちが続々と復員し、再就職先を探し始めます。その結果は失業率の激増です。

地球連邦政府は、戦時下で設けられたさまざまな規制を緩和し、自由化政策を進めることで長期的に経済を活性化しようとします。連邦は、それぞれに主権をもつ各惑星の上に、人類防衛のためだけに設置された小さな政府です。よって全人類領域にわたって、軍需消失を埋め合わすほどのインフラ投資を行うような権限は無いのでしょう(一部、妄想による補完)。

しかし、それでは短期的には恐ろしい不景気が訪れるのは明白でした。いかに短期的な不景気といっても、人間は長期的にはみんな死んでいるのだし、明日をも知れぬ貧困層にとっては来もせぬ長期より明日のパンです。

不景気は差別を招いた

人類の滅亡をかけて異星人と戦っていた時代、平等は自明のことでした。異星人と殺し合いをやっているときに、自分の隣で銃を撃ってくれる戦友の肌の色や性別、信仰や性的嗜好などには、何の意味もなかったのです。

ですが、不景気になり、懐と心に余裕がなくなったら、そうもいきません。この時代における最悪の差別、生誕種別差別が再燃します。

惑星リェータの食い詰め労働者フョードロフは、目先の食事にありつくため、社会運動の団体に入ります。そこで出会ったダヴィナと共に街を歩き、ある日系人を助けた際に、ダヴィナから猛批判を受けて驚きます。

「どうして助けたりしたの?」ダヴィナは言った。息をあらげていた。「Cじゃないの」
「C?」フョードロフは不思議そうな表情を作って訊ね返した。…「Cだからといって助けなくてもよいということには」
「可哀想に」ダヴィナの顔に憐憫が浮かんだ。
「軍で受けた洗脳の結果が残っているのね?」
「洗脳?」
「そう。Cはかならず受け入れねばならないという洗脳よ。わたしたちオリジナルは、連中が人類領域を支配する手助けをせねばならないという洗脳」
フョードロフは唖然ととした。かれは確かに軍で徹底的な差別意識撤廃教育を受けた。しかし、それが洗脳であるなどと考えたことはなかった。…しかし、ダヴィナが示しているそれは、かれの信ずるものと正反対の意識だった。
以前は、常識的な連邦市民であればそれを抱くことが恥だとされていたようなものだった。あまりにも安易な過去の悪霊、その復活であった。
その理由はフョードロフにもわかっている。衣食の足りぬ者は礼節を捨ててそれを埋め合わせようとするのだった。(「地球連邦の興亡〈2〉明日は銀河を (トクマ・ノベルズ)」p167-169)

 洗脳した政府と、洗脳された軍人

抜粋したセリフにあるように、この作品では、地球連邦政府の軍人は明確に洗脳を受けています。人類は平等であるという洗脳。軍人は市民を守るために存在するという洗脳。その時が来たら、全てを捨てて人類に捧げねばならぬという洗脳。

人類存続のため、すなわち外にあっては異星人に勝ち、内にあっては軍が政府を牛耳ることを阻止するため、地球連邦は軍人をそのように洗脳しました。この物語の主人公、南郷大尉もその1人です。

そのような軍人は、市民の権利を守るため、命を投げ出さなければなりません。それが彼らの義務だからです。

一方、地球連邦政府もまた、自らの存在意義に忠実な組織です。連邦は人類全体の生き残りのためにのみ結成された組織です。もし少数の市民がその阻害要因となれば、万難を排して合法的に虐殺することも厭わない、という側面を持っています。

異星人が敵である間は、連邦政府と軍人の理念が対立することは滅多にありませんでした。しかし不景気によって生じた失業、社会不安、そして反体制運動の渦中では違います。

地球連邦政府は、その存在意義に従い、人類全体の生存のため、政情不安の一部惑星に対して陰謀を企みます。

一方、その惑星に赴任していた南郷は、その政府から受けた洗脳に従い、市民に対する義務を果たすために行動するーというのが、大まかな筋立てです。

ぜひとも4巻まで文庫化を!

政情不安が頂点に達する3巻、そして南郷たちが市民を守るために包囲下で奮戦する4巻の面白さはたいへんなものがあります。本番は3巻から。4巻は、ほんと最高!

そのためにも、文庫化が1巻や2巻で終わられては困ります。2巻まで文庫化されて以降てんで音沙汰がない流血女神伝(誰か何とかしてくれ)のようになっては困りますので・・・皆さんぜひ買ってください。

Amazonではもう予約を開始しているようです。なお初弾は既に発射、じゃなかった、私はすでに予約注文しました。あとに続く効力射を期待します!

地球連邦の興亡1 - オリオンに我らの旗を

地球連邦の興亡1 - オリオンに我らの旗を