リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

読んだ本「英EU離脱 どう変わる日本と世界」

 

英EU離脱 どう変わる日本と世界 経済学が教えるほんとうの勝者と敗者

英EU離脱 どう変わる日本と世界 経済学が教えるほんとうの勝者と敗者

 

 欧州経済の近況まとめ本

安達誠司氏の新刊を読み終えました。書名では「英国のEU離脱」に焦点があたっていますが、本の内容はその他の諸点も含めた「最近の欧州経済に関するトピック全部載せ」です。最近話題になった各種の大ニュースを著者の明快な論理で解釈し、そこから今後の欧州経済のゆくえと日本への影響を予測しています。

書名から、英国のEU離脱問題の解説書だと思って買った人がいれば、論点が様々に移ることに戸惑うかもしれません。

また、編集と校閲が不十分であり、本としては生煮えな印象です。急いで作った本だからでしょう。

本としては生煮えな印象

編集が行き届いていない印象を受けます。様々なトピックに議論が拡散し、内容が散漫です。各章の論理的なつながりが不均一で、まとまりに欠けます。

本書と同じく欧州経済を取り上げた過去作「ユーロの正体 通貨がわかれば、世界が読める」が、多角的にユーロの抱える問題を明らかにしていました。そのため、古い新書でありながら、ユーロが存続する限りいつまでも古びない価値を持った本です。

比べて本書は、「最近のトピックと、そこから考えられるごく近い未来の予測」であり、賞味期限の短い本になってしまっています。

例えば円高の原因や為替の均衡点などへの言及を大部分割愛して別の本にし、英国とEU経済への議論に焦点を絞るなど、企画段階で内容を絞り込んだ方が良い本になったのではないかと思います。

論旨は明快だが、文が不明瞭

文章に推敲、校閲の手が入りきっておらず、全体的に読み辛い文章になっています。例えばドイツ経済に関する以下の段落です。

ドイツが国際貿易において高い競争力を有する産業は自動車や機械であるが 、この多くは日本企業と競合する分野である 。例えば自動車産業のプレゼンスをみると 、日本企業と比較して 、ドイツ企業 (フォルクスワ ーゲンや B M Wなど )のプレゼンスが圧倒的に高い 。これは日中関係が冷え込んでいることも影響しているが 、それよりも 、為替レ ートの要因が強いように思える 。すなわちドイツにとって 「ユ ーロ危機 」の影響は 、経済にとってはプラスに作用してきたのだ 。

青字部分は、「中国市場における」という限定が抜けています。この段落だけ見ると、世界市場でドイツ企業のプレゼンスが圧倒的なように読めます。

もちろん、この前段落からの流れ、青字部分の次の文で日中関係に言及していること及び青字部分の内容から「中国市場の話をしているのだろうな」ということは考えればすぐに分かります。

しかし、前後の文脈を酌まねば誤読しかねない文の作りであり、不親切です。このような作り込みの甘い文や段落が散見されるため、すらすらとは頭に入らない本になってしまっています。

著者の論理は極めて明快なのに、文のつくりの不明瞭なため、読み難い本になっています。

にも関わらず、買ってよかった理由は著者

私は安達誠司氏の本は「デフレは終わるのか」以降みな買っており、その議論と視点を努めてリアルタイムに追いかけたい識者の一人だと考えています。

その観点からすると、論点があちこちにいくのは著者の最近の思考に幅広く触れられるのはメリットになります。

また、欧州の国際関係には興味はないが、それが今後の経済に与える影響を手早く知りたい、という人には勧められます。

ただし、過去作を読んでいない人は、同じく欧州経済について論じた「ユーロの正体」と併せて読むことをお勧めします。

 

ユーロの正体 通貨がわかれば、世界が読める

ユーロの正体 通貨がわかれば、世界が読める