リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

読んだ本:「南極点のピアピア動画」野尻抱介著

本書はニコニコ動画とボーカロイドをモチーフにしたSFです。以前に各所で話題になっていたので、遅まきながらKindle版で読んでみました。 てっきり動画やボカロが話の中心になっているのかと思ったら、いやある意味そうなのですが、実はちゃんとSFした物語でした。 表題作「南極点のピアピア動画」などの4つの短編が納められています。 そこでは一文の得にもならないけれど「ウケること」「楽しむこと」を追求する、どこかで見たような人たちの物語が展開されます。 そうかと思えば、冒頭から、

「低レベルな工作機械がより高度な工作機械を作る。その繰り返しの先にあるものは……母なる自然に学べ。情報からすべて複製できるものが自然界にあるか」 「まさかとは思うが…自己増殖機械?この工場自体がか?」

と、自己増殖する無機生命の誕生を思えば、われわれ有機生命は長期的にみてオワコンではないか、どーすんの人類、ということを考えさせます。 あれ、これって動画とかボカロとかのお気楽な話じゃなかったっけ?  でも、そんな命題にも、最後の編「星間文明とピアピア動画」でとサラリと答えてみせているのは爽やかでした。 人間の嫌なところも踏まえつつも、全編が押し付けがましくない愛と希望に満ちていて、読んで幸せな気持ちになりました。 著者の作品はほかに「太陽の簒奪者」しか読んでないのですが、もっと前の作品も読んでみようと思いました。