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リアリズムと防衛ブログ

防衛ってそういうことだったのかブログ。国際関係論や安全保障論について、本の感想などを書いています。

「中国の漁船は中国軍の手先」とNYTが報道

海洋安全保障 中国

 ニューヨークタイムスで、中国が海洋権益を広げるために民間船を活用している件が報道されました。中国は漁船を「海上民兵(maritime militia)」にして送り込んでいる、というのです。(「Chinese Civilian Boats Roil Disputed Waters」2010/10/5)

民間船の活用は中国の常套手段

 中国の海洋戦略と民間船の活用については、このブログでも何度か記事にしてきました。南シナ海で中国が海洋権益を広げている方法をみると、明らかに漁船が中国政府の手先となって働いています。

 民間の漁船を送り込むことからスタートして、段々と実効支配を固めていくのです。まずは係争地域に中国漁船が活発にでていき、次に漁船を保護する名目で漁業監視船がでる。しかる後に海上警察、そして海軍の軍艦と進みます。もと外交官の茂田氏はこう分析されています。

 中国のこういう場合のやり方には一つのパターンがあり、漁船を送り込む、その後、武装した監視船や海軍艦船を送り込むというものである。

尖閣諸島問題 - 国際情報センター - Yahoo!ブログ

 中国政府が漁船を手先にして権益拡張をはかっていることは、このように専門家の間では前々から知られていることです。今回ニューヨークタイムスの報道でも幾人かの専門家がコメントしています。詳しくみてみましょう。

中国海軍の「海上民兵」

 報道では、中国の漁船が(たとえば尖閣諸島沖のような)係争地域へ盛んに赴いていることを書いています。それらの漁船は、公式には、まったくの民間船です。しかし…と、以下のように続きます。

But foreign officials and analysts say there is evidence showing that they sometimes coordinate their activities with the Chinese Navy.


しかし、外交当局と分析家によれば、時として中国漁船は中国の海軍と同調して活動していることを示す証拠があるという。

http://www.nytimes.com/2010/10/06/world/asia/06beijing.html


 中国海軍は漁船からなる海上民兵(maritime militia)の拡張をめざしている、と報じられていす。

The Chinese Navy is determined to create a long-range global presence by modernizing its fleet. But the use of civilian boats is part of a different goal ― to better defend and more firmly assert sovereignty over China’s coast, its territorial waters and the exclusive economic zones that extend 200 nautical miles off the coast. Using civilians is a crucial part of the doctrine that Chinese military officials call “people’s war.”


中国海軍は艦隊の近代化によって長期的にグローバルなプレゼンスを作ることを決意している。しかし民間船の利用は、また異なった目標の一部である。その目標とは、中国の領海と200海里の排他的経済水域(EEZ)の守りを固め、より強固に主権を主張することだ。民間人の活用は、中国の軍当局が「人民戦争」と呼ぶドクトリンのきわめて重大な要素なのだ。

http://www.nytimes.com/2010/10/06/world/asia/06beijing.html

 人民戦争ドクトリンとは、毛沢東が立案した戦い方です。軍人と民間人の別なく、中国人民の総力をあげたゲリラ戦を展開します。このドクトリンはすでに修正されていますが、その伝統は受け継がれています。

 よって中国軍にとって民間船を活用することは自然な発想なのかもしれません。海においては領土係争に勝って経済水域を広げるため、漁船を手先に使っている、という分析です。

漁船が軍艦に進路妨害

 中国軍は漁船を手先にしている、という分析には説得力があります。2010年の3月にもそれを裏付ける事件がありました。アメリカ軍の音響測定艦が、中国当局の船と漁船によって進路妨害をうけました。

 音響測定艦「インペッカブル」は、南シナ海を調査していました。場所は公海でしたから、海洋調査活動は自由です。しかしそこへ中国当局の船と、中国国旗をかかげた漁船が邪魔をしにきました。

これに対し、中国海軍の情報収集艦や漁業監視船、国家海洋調査局の艦艇、2隻のトロール船が妨害活動を仕掛けた。中国側の5隻がインペッカブルに異常接近した後、うち2隻は進路を塞ぐようにインペッカブルの舳先15メールまで近づいた。このため、非武装の同船はたまらず消防ホースで放水。

米中緊迫「第2の海南島事件」 海洋法条約の履行運動を

 上記記事によれば、非武装とはいえアメリカの軍艦に対し、漁船の船員は不敵にも「トロール漁船上でお尻を向け、下着をズリ下げ」てみせたといいます。小牧長久手の秀吉のように「尻でもくらえ」とやったわけです。

 中国海軍や当局の艦船が妨害にくるのはまだ分かります。中国政府は海洋法を独自に解釈しており、EEZ内で外国が調査活動をするのは違法だと主張しているからです。

 疑問なのは、なぜそれに民間の漁船が協力して、軍艦にさえ立ち向かってくるのか、ということです。このような例から見ても、やはり一部の中国漁船は軍当局のもとに組織化され、指示を受けて動いているとみるべきでしょう。

 自国の経済水域から外国の軍艦を追い出すにも、外国との係争水域を自国のものにするためにも、中国は民間の漁船を利用しています。

なぜ漁船を活用するのか?

 しかし、なぜ漁船なのでしょう? 北京のアメリカ大使館で駐在武官をつとめたDennis J. Blasko氏は、漁船を尖兵として使うメリットをこう述べています。

employing civilian forces “may be less provocative and with less potential for escalation than employing active duty PLA forces,”


民兵を使うことは「現役の中国軍を使うよりも刺激が少なく、事態をエスカレートさせる可能性が低い」

http://www.nytimes.com/2010/10/06/world/asia/06beijing.html

 いきなり係争水域に軍艦を送り込んだのでは、対立相手からも強いリアクションが返ってきます。しかし漁船ならば名目上は民間人ですから、対立国としても思い切った対抗措置はしづらい、といえます。といって「まあ、軍艦が攻めてきたわけでもないし、漁船くらいなら……」と放置すれば、中国漁船が当たり前のように係争水域で魚をとるようになり、中国の実効支配が深まっていきます。すると漁船を保護するために漁業監視船が常駐するようになり、「ここは中国の経済水域だ」という既成事実を作っていきます。

 周囲の国々としては、こういった事情をよく理解して「たかが漁船のこと、血気にはやった民間人のこと」と甘くみないことが重要です。日本の経済水域で違法に操業する中国漁船に対しては、とにかくこまめに追い出し、甚だしい場合は逮捕も厭わずに対処しなければ、だんだんと既成事実を作られて経済水域を奪われていってしまうでしょう。先の尖閣沖事件は、その始まりと考えるべきです。

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