第四次中東戦争の流れ
この戦いは両国の間にある「シナイ半島」を巡って行われました。一つ前の戦争、第三次中東戦争で完勝したイスラエルは、シナイ半島を支配していました。国土が狭いイスラエルに取って、自国を安全に守るためにはシナイ半島を領有し、盾とする必要があったのです。しかしエジプトに取って、これは許されない屈辱でした。シナイ半島はエジプトの正当な領土だと考えていたからです。
そこでエジプトは大軍を用意し、スエズ運河の東岸に渡ってシナイ半島に上陸。イスラエルを奇襲攻撃します。イスラエルはエジプト軍の動きについて正確な情報を掴んでいましたが、その解釈を完全にミスしたので、戦争が起こるとは思っていませんでした。「まさか、戦争になんかなるはずがない」と思い込んでいたのです。
奇襲を許したイスラエル軍は、早速反撃に出ます。強力な戦車部隊を差し向けたのです。ところが、これを予期していたエジプト軍が多数の対戦車兵器を揃え、防御を固めていました。イスラエルの戦車部隊は、歩兵や砲兵の援護を欠いていたので、散々に負けてしまいます。
イスラエル軍のもう一つの柱、中東最強の戦闘機部隊は、アラブ軍を圧倒していました。シナイ半島どころか、敵国エジプト領にさえ進出することができました。しかし、そんなイスラエル空軍ですが、この戦争で重要なポイントとなったスエズ運河付近の狭いエリアにだけは、近寄ることもできませんでした。
スエズ運河の西岸に多数の対空ミサイルや対空砲が集中し、守りを固めていたため、近寄ればイスラエルの戦闘機も次々に撃墜されてしまいました。空は広く、空の戦いは流動的なものなので、多くの空で勝ったからといって、それだけで戦争に勝つことはできないのです。
そこで、態勢を立て直したイスラエル陸軍が反撃に出ます。緒戦で完敗した原因は「戦車だけで活動して、対戦車兵器にやられた」というものでした。歩兵に守られていない戦車は脆弱です。しかし戦車に守られていない歩兵も同じように脆弱です。そこで、歩兵と戦車をバランスよく組み合わせ、反撃準備を整えました。
準備を整えたイスラエル陸軍は、スエズ運河の西岸に渡ってエジプト領に突入するストロング・ハート作戦を発動。エジプト軍の対空ミサイル群を一掃します。これで空軍も活動できるようになりました。
スエズの東岸では、帰り道を無くしたエジプト陸軍の第3軍がシナイ半島で周りをイスラエル軍に完全に包囲されて孤立。全滅するか、降伏するかしかありません。第3軍が壊滅すれば、エジプト軍はせっかく取り返せそうだったシナイ半島から追い出されます。
しかし、ここで待ったがかかります。これ以上、戦場でイスラエルが勝利すると、かえってまずいことになると思われたからです。
戦争は、相手の軍や国を叩きのめせば終わるのではありません。お互いに納得できる形を見出し、昨日までの敵と手を結んだ時にこそ、戦争が終結するのです。そのためには、エジプト軍が健在なまま、サダトが勝利を主張できる間に、停戦する必要がありました。
エジプトは戦場では負けましたが、シナイ半島に軍が残っていたことで「勝利した」と主張し、サダトは英雄になりました。イスラエルは戦場では勝ちましたが、緒戦の惨敗から国民の支持を失い、ゴルダ・メイア首相は辞任します。
勝利を主張したサダトは、絶大な権威を得て、そして初めてイスラエルとの和平を模索することができました。戦争を決意し、「100万人の犠牲を出しても」という固い決意で開戦し、兵士たちの血を流した英雄サダトだからこそ、国民に対してこう言う資格がありました。
ちっぽけな領土よりも、平和の方がずっと大切だ。もう戦争はやめよう。
参考文献
〈図説〉中東戦争全史 (Rekishi gunzo series―Modern warfare)
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