リアリズムと防衛ブログ

防衛ってそういうことだったのかブログ。国際関係論や安全保障論について、本の感想などを書いています。

ガス田、尖閣諸島にみる中国の海洋戦略まとめ

中国の指導者である胡錦濤国家主席が来日しています。
その成果として、東シナ海ガス田の共同開発問題に前進がみられるそうです。

東シナ海ガス田共同開発問題について、政府高官は7日、夏前に両国が基本合意し、具体的な内容を発表できるとの見通しを明らかにした。
時事通信08/5/7

この件が日中ともに利益がある形でまとまれば、日中間の緊張緩和がさらに進むことになるでしょう。
しかし、中国の海洋進出がそれで止まるわけではありません。

中国の海洋進出は、単にガス田の1つ2つにとどまらない大きな戦略だからです。


辺境押し出しの伝統

中国の歴代王朝には、衰えているときには「辺境」を守り、栄えているときに「辺境」を押し出すという伝統があります。

「辺境」とは中華(世界の文明の中心である中国)と夷狄(周辺の野蛮な国々)の境界線のことです。

この「辺境」の考え方は、現代的な”国境”とは違います。辺境は固定されたラインではなく、あくまで中華と夷狄の勢力均衡線です。だから機が熟したときにいつでも押し出せる柔軟なライン、という感覚のようです。

例えていえば海岸線のようなもの、といえるかもしれません。潮が引いているときは後ろに下がっているけど、潮が満ちてくれば自然と迫ってきて陸地を飲み込んでいきます。

中国の辺境意識も、中国の力が強まれば自然と自分の勢力圏が拡大するのは歴史的に当然のことのようです。(参考:チャイナウェーブp116)


中国の海洋進出戦略

最近の中国も経済的、軍事的に強大化してきたので、過去の王朝と同じように、当然のように勢力圏を拡大しています。

なかでも海洋進出に力をいれています。

東南アジアからペルシャにかけて、「真珠の糸」と呼ばれる海洋戦略ラインを建設し、海洋へのプレゼンスを拡大しています。(真珠の糸戦略については別エントリーで詳述します)

中国の国内的にも、むかし大航海を行った鄭和を英雄として再評価するなど、海洋国家として成長していくという路線で人民を鼓舞しています。


「中国の海」の拡大と、奪われる島々

このような拡大路線は中国国内からみればたいへん気分がいい話でしょうが、周辺の国々にとっては迷惑な話です。しかし中国は周辺の国にあまり配慮せず、当然のように自国の勢力拡大を告知しています。

その代表が『領海法』と『海洋法』の制定です。

それぞれ1992年と97年にできた中国の国内法です。(wiki

国内法なのに、そこで書かれていたことは外国に対する宣言も同然でした。それは「ここまでが中国の領海で、中国が権益を保持する」ということを決めた法律だったのです。ふつう、このようなことは周りの国と話し合って合意の上で決めることですが、中国はそれを一方的に宣言してしまったのです。

領海法で宣言されているのが「尖閣諸島西沙諸島南沙諸島は中国の領土である」ということです。

尖閣諸島は日本の領土ですし、西沙諸島南沙諸島はベトナム・フィリピン・台湾なども領有権を主張している係争地です。ところがこれらの国と話し合って合意したわけでもないのに、一方的に国内法で「ここは中国領」と勝手に決めたわけです。

勝手に領有を宣言し、実力で認めさせる

「うちの領土だ」と宣言した島々を、中国が実力で自分のものにしてきました。

南シナ海の事例はそれが顕著です。

中国の南シナ海への押し出しは1980年代から始まりました。

西沙諸島をはじめとするベトナム周辺の島やサンゴ礁を、実力で占領していったのです。

80年代始めから、中国は南シナ海でまず海洋調査を盛んに実施し、軍艦を送って軍事演習をさかんに行いました。そしてついに西沙諸島に海軍陸戦隊を上陸させ、実力で係争地を占領してしました。さらに88年にはベトナム近海のサンゴ礁に陸戦隊を上陸させ、「中華人民共和国」の標識を設置させました。

続いて90年代に中国は南シナ海のフィリピン付近にも進出します。90年にフィリピン・パラワン島西方のサンゴ礁にも同じく「中華人民共和国」と標識を設置しました。さらに94年にはフィリピンの領土だったミスチーフ環礁に勝手に軍事施設を建設しました。フィリピン政府はこれに強く抗議しましたが、中国は聞く耳を持ちませんでした。

2000年代に入ってからの中国は東シナ海などの日本近海にも活発に進出しています。海洋調査船を送り込んで盛んに海洋調査を行い、日本領だと国際的に認められている沖の鳥島を「あれは島ではなく岩だから、領土とは認められない」と主張したり、日本領である尖閣諸島の領有権を主張して漁船を送り込んだりしています。

中国の日本近海への進出は、南シナ海でベトナムやフィリピンとの係争地を実力で占領してきたときと手法がそっくりです。(海洋調査→一方的な領有権主張→実力行使→実効支配)


ガス田が解決しても安心せず、日本も海洋政策を

このように中国の海洋進出は戦略的規模でおこなわれています。

たとえ今回の日中首脳会談をきっかけにガス田問題1つが解決しても、それで中国との海洋問題がすべて解決するわけではないのです。

日本がうかうかしていると、ベトナムやフィリピンのように島の1つ2つ、いつの間にか持っていかれても不思議はありません。先ごろ成立した「海洋基本法」を軸に、日本も権益保護などの海洋政策を明確に打ち出していくことが必要ではないでしょうか。中国のそれを違って平和的、互恵的で他国にも優しい政策を、ただしハッキリと主張していく必要があるでしょう。


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〇参考文献〇