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なぜ北朝鮮への太陽政策は失敗したのか?

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太陽政策もご褒美も失敗してきた

太陽政策や六カ国協議での北朝鮮への援助提供は、宥和政策の失敗の轍を踏んでいました。

太陽政策とは、軍事的圧力ではなく、経済援助や文化交流によって、北朝鮮との関係改善をはかる政策です。2000年の南北首脳会談以降、韓国によって行われてきました。金剛山観光事業、開城工業団地事業、道路の連結、離散家族の再会事業などです。

また米朝合意や六カ国協議では、経済援助を与えるかわりに北の核開発放棄を求めてきました。このような融和の努力にも関わらず、北朝鮮の核武装を止めるには至りませんでした。

この失敗は1943年までナチス・ドイツに対して行われた「宥和政策」の失敗を思い起こさせます。ドイツが第一次大戦の失われた領土の復帰等のさまざまな要求を次々に出しました。軍事的威嚇によってそれらの要求を認めさせようとしました。イギリスなどの諸国は、要求を認めてやればそのうちドイツは国際秩序の中に納まるだろう、と考えていました。しかしドイツにはそのつもりは全くなく、ついにはポーランドに侵攻、第二次大戦が始まります。

「ネズミにミルクをやれば、次はクッキーを欲しがる」という西洋のコトワザがあります。日本では「盗人に追い銭」といいます。子どもの躾においても、何かいたずらをしたときに「おもちゃを買ってあげるから、もう悪戯はしちゃ駄目よ」という対応をとると、悪戯は再発します。子どもは「悪戯をすればおもちゃを貰える」と考えてしまうのです。宥和政策はまさにそれでした。

といっても、「どんな時でも宥和政策は失敗する」というわけではありません。

宥和政策が成功するとき、失敗するとき

宥和政策には成功条件があります。モーゲンソーは宥和政策についてこう述べています。

現存の全体的な力の配分のなかで調整を求める現状維持策に対しては、ギブ・アンド・テイクの政策、均衡政策、妥協政策によって処理できよう。…(しかし)現存の力の配分を打破しようとする帝国主義は、少なくとも封じ込め政策によって対抗されなければならない。
「国際政治 権力と平和」p68

北朝鮮は今の国際秩序を認めた上で、経済援助や体制護持の言質をとろうとしているのではありません。あくまでも核保有国に成り上がって「北朝鮮は核保有国として遇される」という新しいルールを国際社会に追加しようとしています。そのため「重油をやるから核開発をやめろ」というようなギブ・アンド・テイクや妥協政策によって、その目的を止めることはできないのです。

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