リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

「安全保障のポイントがよくわかる本 ―安全と脅威のメカニズム」

 今日は本の紹介です。当ブログでは以前に防衛・安全保障について新書や文庫から3冊を選んで紹介しましたが、今回はより体系的な本です。この「安全保障のポイントがよくわかる本」は安全保障分野における教科書の入門書です。「安全保障」というとそれらしく聞こえるけれど、いったい「何を、何から、どのように安全を保障するの?」ということを説いています。

●目次●
第1章 何を守るのか 〜拡大する安全保障の概念

  1. 国家・国際社会・人間の安全保障
  2. 経済の安全保障
  3. 環境の安全保障
  4. 資源・食糧の安全保障
  5. 政治・文化の安全保障
  6. 日本の視点「総合安全保障」という目標

第2章 安全を脅かすものはなにか 〜伝統的脅威 

  1. 侵略と現状不満国
  2. 地域安全保障環境
  3. 国際安全保障環境
  4. 国内紛争と国外勢力の介入
  5. 日本の視点 東アジアと「不安定の弧」の脅威

第3章 安全を脅かすものはなにか 〜非伝統的脅威

  1. 国際テロリズム
  2. 大量破壊兵器の拡散
  3. 破綻国家
  4. 移民
  5. 海賊・麻薬
  6. 日本の視点 求められる国家的戦略

第4章 何で安全を担保するのか 〜手段

  1. 軍事力
  2. 外交
  3. 経済的手段
  4. 情報と技術
  5. ソフトパワー
  6. 日本の視点 日本の安全保障の手段 可能性と限界

第5章 どのように安全を担保するのか 〜方法

  1. 勢力均衡と同盟
  2. 国連と集団安全保障
  3. 協調的安全保障
  4. 国際法と安全保障レジーム
  5. 安全保障共同体
  6. 日本の視点 日米同盟を基軸とする複合的アプローチ

 昔は安全保障といえば「自分の国家を、敵国から、軍事力で守る」ことでしたが、現在の安全保障研究は実に手広い商売になりました。あたかも酒屋がコンビニになったように、扱うモノの種類がびっくりするほど増えたのです。あれも安全保障、これも安全保障。

 守るべきは国家だけじゃない、国家に庇護されていない難民の人権だとか、経済や文化、移民に資源、果ては地球環境にまで、安全保障の視野は広がりました。備える脅威は敵対国の軍隊ばかりじゃなく、どこの国にも属さないテロリストや海賊、果ては移民や新型ウイルスまで、その影響や態様に注意すべき時代です。そんなに幅広く守るのでは、軍事力だけではおっつきません。経済なつながり、EUのような国際機構、さらには文化の力だって馬鹿にならない。

 では軍事問題が無用になったかといえば、さにあらずです。西洋ではEU統合が進む一方で08年にグルジア戦争があり、東洋では主要国のほとんどが軍拡中です。また北朝鮮やミャンマーのような小国が核兵器を持とうとしたりと、脅威の多様化も進んでいます。

 こういう次第だから、幅広い分野において、多様な手段を用いた安全保障が求められているのが現代です。軍事・非軍事を横断して広がった安全保障を、本書は幅広くとりあげ、各分野のポイントを説明しています。国家の軍事力による伝統的な安全保障はもちろんのこと、麻薬や海賊の問題、ITや文化の効果といった新しいポイントも広く抑えています。

  こう実にはばひろく網羅する一方で、まったく単純な構成をとっているのが本書です。まず第1章で「何を」守るのかを吟味、次に2・3章で「何から」守るのかを明らかにし、そして4・5章で「どのように」安全を保障するかの手段について論じています。

 ハッキリして分かりやすい構成のおかげで、分厚いながらも読み進んでいき易いのです。だから安全保障についてキチンとした知識を得たければ、何はともあれ最初に読むべき一冊だというべきでしょう。