リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

武器輸出三原則についてのよくある誤解

日経によれば、武器輸出三原則の緩和が検討されているようです。

政府・与党、武器輸出三原則の緩和検討 共同開発・生産を容認  政府・与党は23日、武器や武器技術の輸出を禁止する武器輸出三原則の緩和を検討する方針を固めた。年末に改定する予定の防衛計画の大綱に、他国との武器の共同開発・生産の容認や、共同開発国への輸出の解禁を盛り込む。欧米諸国が進めている次世代戦闘機など主要装備の共同開発・生産への参加の道を開き、調達コストの抑制と、国内の防衛産業の活性化につなげる狙いだ。  武器輸出三原則は1967年に佐藤栄作首相が表明した共産国や国際紛争の当事国などへの武器禁輸方針だった。76年に三木武夫首相が事実上の「全面輸出禁止」に転換。現在も米国とのミサイル防衛(MD)システムの共同開発などを除き、禁輸が続いている。(24日 14:57)

日本経済新聞

武器輸出三原則については誤解されていることが多いようです。少し解説してみます。

武器輸出三原則は、武器の輸出を認めている

武器輸出三原則は一般に、日本の武器輸出を禁止しているものと思われています。
ですが武器輸出三原則は日本の武器輸出を基本的に認めています。ただしそれに制限を加える原則なのです。

実際の文言を見れば、それは一目瞭然です。

武器輸出三原則とは、次の三つの場合には武器輸出を認めないという政策をいう。 (1)共産圏諸国向けの場合 (2)国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合 (3)国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合 [佐藤総理(当時)が衆院決算委(1967.4.21)における答弁で表明]

外務省: ご案内- ご利用のページが見つかりません

逆に言えば、共産主義国ではなく、武器輸出禁止の国連決議を受けておらず、かつ国際紛争の当事者ではない国に向けては武器を輸出してOK、ということです。

輸出を禁止しているのは武器輸出三原則”等”

日本が武器を輸出しない根拠となっているのは「武器輸出三原則等」です。この”等”の部分に入るのが、三木首相による、三原則以外でも武器の輸出を自粛するという国会答弁です。

武器輸出に関する政府統一見解(1976.2.27)  「武器」の輸出については、平和国家としての我が国の立場から、それによって国際紛争等を助長することを回避するため、政府としては、従来から慎重に対処しており、今後とも、次の方針により処理するものとし、その輸出を促進することはしない。 (1)三原則対象地域については「武器」の輸出を認めない。 (2)三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。 (3)武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする。 [三木総理(当時)が衆院予算委(1976.2.27)における答弁において「武器輸出に関する政府統一見解」として表明]

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一般的に「武器輸出三原則が…」という場合、この見解を含んだ「武器輸出三原則等」のことを意味します。緩和が検討されているのはこの「等」を含めてのことです。外務省のWEBサイトでも

わが国の武器輸出政策として引用する場合、通常、「武器輸出三原則」(上記1.)と「武器輸出に関する政府統一見解」(上記2.)を総称して「武器輸出三原則等」と呼ぶことが多い。

外務省: ご案内- ご利用のページが見つかりません

とはっきりと書かれています。よって日経が「三原則の緩和検討」と書いているのは記者の不勉強です。

武器の輸出を禁止した法律はない

三原則等は、憲法や何かのように、あたかも法律で決まっているかのように思われている場合があります。「原則で禁止されている」「三原則に違反している」なんていわれると、法律みたいですものね。

ですが実際には武器輸出を禁じた法律はありません。武器禁輸は法的には、外国貿易法等を運用することでなされています。その法律というのがこちら。

第四十八条  国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

外国為替及び外国貿易法

禁止しているのではなく、経済産業大臣の許可が必要、という規定なんです。そして大臣が、三原則等に従って、許可を出さないことにしています。三原則等は政府見解であり、大臣はそれに従わねばなりません。よって政府見解が変わり、三原則等が緩和され、大臣が許可を出すようになれば武器輸出はおこなえるようになります。

なお四十八条にある「特定の地域に対する、特定の種類の」という言葉の意味は、輸出貿易管理令で定められています。(こちら

今検討されている緩和では、日本は死の商人にはならない

上に引用した日経の記事にもあるように、今検討されているのは「他国との武器の共同開発・生産の容認や、共同開発国への輸出の解禁」です。武器輸出をやるぞ、なんていうと、第三世界の紛争地帯に日本の商社マンがマシンガンを売りに行くようなイメージが浮かぶ方もいるかもしれません。ですが今検討されている緩和はあくまで国際共同開発のためのものなので、日本が死の商人みたいになる心配はありません。

武器輸出三原則等によって、日本はアメリカ以外との共同開発ができません。

兵器の国際共同開発(ワリカン)は世界の流行

いま世界各国は兵器のコストを下げるため、国際共同開発を多く行っています。技術の発達によって兵器が精密機械のかたまりになってしまい、開発コストがうなぎのぼりになってしまいました。そこで何カ国かで集まって資金と技術を持ち合う、共同開発がはやっています。

この戦闘機タイフーンはイギリス、ドイツなどヨーロッパの4カ国が集まって共同開発したものです。他にもF35戦闘機、イギリスとフランスの次期航空母艦などが国際共同開発されています。

このような共同開発にはいくつかメリットがあります。

  1. 税金の節約(一カ国で開発するのに比べ、ワリカンになるため安い)
  2. 信頼関係の醸成(使用する兵器を一緒に作るので、お互いの軍事力が分かり、無用の緊張を避けられる)

その反面、数カ国の要望をすり合わせた設計になるので開発が難航し易いのがデメリットです。

日本の次期主力戦闘機は国際共同開発になるかも?

ニュースによれば航空自衛隊の次期主力戦闘機に「F35」を検討する動きがあります。

航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)選定を巡り、浜田防衛相が今月1日にワシントンでゲーツ米国防長官と会談した際、長官から米英などが共同開発中の「F35」導入を打診されていたことが分かった。

お知らせ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

仮にF35を入れることになるのであれば、F35は国際共同開発のプロジェクトで開発中の機体ですから、武器輸出三原則等を緩和しないと導入できないでしょう。いま検討されている緩和も、とりあえずF35を念頭においてのものではあるのでしょう。F35を買うと決まったわけではないですけどね。

武器輸出三原則等を緩和したら、日本は兵器大国になれるか?

いま検討されているのは国際共同開発の緩和です。日本が単独開発した兵器の海外輸出ではありません。ですが仮に、日本製の兵器の輸出が全面的に認められたとしたら、日本は兵器輸出大国になれるのでしょうか。

恐らくそれはないと思います。少なくとも、日本の商社マンがアフリカのゲリラに機関銃を売るような事態には、どう頑張ってもなりません。

なぜなら日本は人件費が高く、低価格兵器では中国製やロシア製に(恐らくほぼ確実に)対抗できないからです。例えば兵器の大ヒット商品であるAK-47ライフルをみてみましょう。

単純な構造のため誰でも扱え、めったに故障せず、きわめて安価なアサルト・ライフルAK-47。この突撃銃は、戦争の形態から世界のパワーバランスまで変えてきた。

10ドルの大量破壊兵器「AK-47」がもたらした世界: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

「アフリカのクレジットカード」と呼ばれるほどコモディティ化しており、人類史上最も人を殺した兵器として名をはせた

10ドルの大量破壊兵器「AK-47」がもたらした世界: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

AKはこれほどまでにヒットした理由の一つが価格です。わずか10ドルという安さは、途上国でも手が届く価格帯です。1ドル100円と考えれば一丁が1000円で手に入るのですから、日本なら個人のお小遣いでさえかなりの数が買える計算ですね。

これに対して日本製の89式小銃は一丁20万円以上します。

これは自衛隊だけが調達した場合の価格です。輸出が認められて量産すれば価格は下がるでしょう。しかし、それにしても限度というものがあります。20万円の89式が仮に半額になったとしても、まだAKの100倍の超価格。これでは勝負にならないでしょう。

自動車や家電などをみても、現代日本が輸出に成功しているのは高機能、高信頼性の高級品が多いという気がします。兵器を輸出することになったとしても、日本の技術力*1をいかした高級兵器でなければ、あまり売れないのではないでしょうか。

仮にそうだとすれば、そんな高級兵器を買える国は先進国か、産油国ぐらいのものでしょう。当然、売れる数はかなり限られます。ですので、仮に武器輸出を全面解禁したとしても、世界中に兵器を売りまくることはとうていできそうにありません。

先進国相手に高級品を売るということになれば、当然メンテナンスや改良などで継続的なつながりができますから、武器輸出はその国と親密になるツールの一つになります。お互いに知った武器を持っているということは、国際共同開発の場合と同じように、一つの信頼醸成措置になります。

三原則等解禁=死の商人 みたいなイメージではなく、現実的な話が必要

以上をみても、武器輸出の禁止を金科玉条にするのではなくて、さまざまな側面から現実的な議論が望ましいということがいえると思います。一口に武器輸出といっても、例えば以下の3つでは全く意味が違います。

  1. 先進国が集まって兵器を共同開発する
  2. 紛争当事国ではない国へ高級兵器を輸出する
  3. 紛争当事国や非政府組織に軽火器(小銃、軽機関銃など)を売る

1ならば、日本人の税金を節約し、限られた防衛費を経済的に使えるようになります。他方、共同開発が低迷して、必要な時期に間に合わない、という可能性を背負い込むことになります。

2ならばその国と日本の親密さを深め、二国間戦争の可能性を減らすことができます。幕末に仲が悪かった薩摩藩長州藩は、薩摩から長州に武器を輸出することで関係を改善し、仲良くなりました。量産効果によって日本製兵器の価格はいくらかは下がるでしょうから、防衛費の経済的活用にもつながります。他方、その後の動向によっては、輸出先の国が日本製兵器を実戦使用することもあるかもしれません。

3をやったならば、日本は紛争の可能性を高めているとして批判されてもしかたがないでしょう。前述したように日本の人件費でこれを行うのはほとんど不可能だと思いますが…。

このようなわけで、武器輸出といっても色々です。やり方と相手先を選べば、国民の税金を節約する、相手国との友好関係を深めるなどの良い効果も期待できます。売り先が紛争当事国ならば、その紛争に対して日本は道義的責任を一部負うことになるでしょう。しかし逆に売り先が平和を愛する現状維持国で、平和のための抑止力として使ってもらえば、誰も死なないために役立つこともあるでしょう。

一例を挙げれば、アメリカから高性能の高級兵器を、数十年に渡って大量に輸入してきた日本です。それらの兵器は武器輸出のたまものですが、しかし侵略に使われたことはなく、ただ日本人の平和と安全のためにだけ存在しています。

*1:例えばレーダーならば日本はアメリカより進んだ技術を持っているそうです。他にも飛行艇などでは日本の技術は優れていると聞きます