リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

いま読み返したい本「ユーロの正体 通貨がわかれば、世界が読める」

  ということで、欧州は相変わらずです。

 今日もなお、ドイツらはギリシャに緊縮財政をもとめ、財政赤字を減らせといっています。政府が支出をカットしたり、増税をしたりすることを緊縮財政といいます。緊縮をすると景気は必然的に悪化します。このように財政政策をしばられ、しかもユーロを導入していることによって、悲惨なことになります。

 なぜこうも相変わらずなのかといえば著者が言う「ユーロ危機の抜本的な解決」ができていないから。問題の本質を捉え損ねているからです。

 報道を見ると、今回のユーロ危機は、あたかも「ギリシャをはじめとした欧州各国の放漫財政による財政赤字が問題の本質」のように思えてしまいます。

ユーロに埋め込まれた危機の種は、「ユーロという共通通貨を導入」し、同時に「各国の金融政策を廃止して、ECB(欧州中央銀行)という”一つの中央銀行”に委ねた」部分にあります。つまり、「ユーロ参加国はそれ以降、各国の経済情勢にあわせた独自の金融政策を行うことができなくなった」ということが問題なのです。

景気がいくら悪化しようとも、「独自の思惑で、景気を下支えするための金融緩和政策を実施することができなくなった」ということです。これが今回のユーロ危機の本質です。

 問題の本質を見誤っているといえば、日本の報道もそうです。以前の、そして今回のギリシャ危機をみても、財政赤字が蓄積して債務不履行になりかけると恐ろしい、ということを日本への教訓のように報じるむきが多くあります。いわば、「日本がギリシャ化する」ことを恐れているのです。

 これに対し、著者は真逆の結論をだします。

 私の見立ては(財政赤字問題の高まりによって)「日本がギリシャ化する」と言っている政府や、政治家を含む大多数の日本人の懸念とは、順序がまったく逆になっています。

つまり、ユーロ危機を財政危機ととらえ、例外なき緊縮財政で乗り切ろうとする、ドイツを中心としたユーロ圏の政府首脳の見立ては明確に誤りであり、危機に陥っている国に対し、これ以上、緊縮財政を強いれば、その国の経済はますます疲弊し、次なる経済危機が到来する可能性が高いということです。

 十分な景気浮揚策を行わず、財政危機だけをみて緊縮に走り、景気を悪化させ、若者を筆頭に市民の生活はぼろぼろになっていきます。すると、結局は財政危機も深刻化していきます。

 緊縮が不況を呼び、不況が財政を悪化させ、さらなる緊縮を強いられる、麻薬中毒患者のような状況になってしまいます。

結論を言うと「日本が今回のユーロ危機から真に学ばなければいけないこと」は、「日本がギリシャ化する前に、消費税を上げて財政再建しなければならない」という現在の日本政府の考え方が、明確な誤りであるということです。

 この指摘もまた、2012年からその後の展開に対して的確な警鐘を鳴らしていたといえるでしょう。

 なぜこういうことになるのか、その理屈は本書の前半から中盤にかけて分かりやすく解説されています。また、欧州ではしばらくおきに危機が繰り返すと洞察した著者は、著者はさらに長期の欧州とユーロの見通しとして、2つのシナリオを挙げています。こちらのシナリオも実際はどのようになるか、今後の展開と引き比べてみたいものです。また、日本の経済と財政をどうすればいいかについても明確に書かれています。

嫌な方向に進む欧州 

欧州は、長い時間をかけて、国境を超えた統合を進めてきました。その契機は二度の世界大戦という歴史への痛烈な反省だったはずです。

ところで、ギリシャはここ数年、財政健全化のために緊縮財政につとめた結果、若年失業率が50パーセントに達しています。この状況でドイツ等から更なる緊縮による債務返済を求められれば、理も非もなく腹をたてるのが当たり前です。例えば、かつてヴェルサイユ条約より課された賠償金の返済に苦しめられた、かつてのドイツと同じように。

 

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