リアリズムと防衛を学ぶ

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本物の古代史のまとめ本「古代史講義」ちくま新書

古代史講義 (ちくま新書)

古代史講義 (ちくま新書)

 

ずっと昔から、歴史はエンターテイメントとして消費されるものです。むかしむかしは歌物語や講談話、現代では歴史ドラマやゲーム、「なになにの謎!」だったり「歴史の真実!」的なお軽い歴史本が出回るのは、百年一日の景色です。

裾野が広がるのは良いことで、裾野は常に低く俗なものです。かといって、裾野がなくて、どうして頂きが高くなれましょうか。本が売れるのは良いことです。本屋も出版社も、ごくごく一部の売れる本で口に糊して、売れないけど良い本をたくさん出すのです。すれば、裾野から入った人も、次の道しるべを手に取れるというもの。

例えば本書のような、研究者たちによる「今、ここまできてるよ」というまとめ本です。

学術の世界は奥深くて、様々な分野をことごとく修めることは到底できません。でもありがたいことに、時折こういう本を研究者のみなさんが呻吟して書き、出版社が新書や文庫で出してくれます。本書には、遣唐使についてこういう記述があります。

『旧唐書』日本伝には、養老の遣唐使について、「皇帝から賜った品々を売り払い、その代金全てで書籍を購入し、それらを船に積み込んで帰っていく」との記事がある。なりふり構わず中国からの文化移入に努めた様子が窺えるが、ここで注目すべきは、不要な高級品を持ち帰るより、直接役立つ書籍を求める姿勢である。

遣唐使たちが宝飾品の代わりに買い求めた群書はさぞ高級だったでしょうが、本書はただの新書です。書いている研究者がその分野を修めるのに何年、何十年かけて辛苦したかを考えれば、タダ同然の値段ですよ。こういう本を庶民が買える値段で売れるなら、日本の文明も捨てたものではありません。

本書は「邪馬台国から平安時代まで」の書名の通り、各時代の研究者が今までどんな成果を積み上げてきたかを要領よくまとめてくれた本です。かつて教科書に載っていた説も今は覆され、どんどんと新しくなっている・・・最近の教科書は「聖徳太子」と書かず「厩戸王」らしいとか、聞いてはいても、なぜ説が改まったのか、説明できるでしょうか?

本書では、目覚ましい考古学の成果が、旧説を転換させていく過程が描かれます。まるで、探偵が意外な証拠を発見して、事件の真犯人を明らかにするようなスリルがあります。なるほど歴史学の営みというのは立派なものだと感心します。おすすめです。